世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、2023年3月28日にコロナウイルス感染症2019(COVID−19)ワクチンに対するロードマップを改訂した1)。今回の改訂においては、オミクロン株の流行による感染拡大およびワクチン接種の普及により、多くの国や地域において高い集団免疫が得られつつあることを理由に、COVID-19ワクチン接種の優先度を以下の3つのグループに分類し、それぞれに対する推奨を提示した。
健康小児が低優先度群に分類されたため、ロードマップ公開直後には、ネットニュースやSNSを介して「WHOが小児へのCOVID-19ワクチン接種推奨を中止した」という、誤った情報が拡散された。
筆者は今年6月、マニラで例年開催されているWHO西太平洋地域事務局(Western Pacific Regional Office:WPRO)のTechnical Advisory Group(TAG)会議に参加し、各地域の小児に対するCOVID-19ワクチンの接種状況に関して、意見交換をする機会を得た。あるWPRO加盟国の代表は、「接種費用および接種機会確保の困難さから、小児よりも重症化が懸念される高齢者にCOVID-19ワクチンを優先せざるを得ない状況である」と述べていた。実際、TAG会議におけるCOVID-19ワクチン接種状況に関する議論は、成人を接種対象とした内容が中心であった。一方で、「日本の親は、既に接種可能な小児用のCOVID-19ワクチンが国内に輸入されているのになぜ接種しないのか?」という質問を受け、返答に窮した。
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会は6月9日、「小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を改訂し、「国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在することから、これを予防する手段としてのワクチン接種については、日本小児科学会としての推奨は変わらず、生後6カ月〜17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を推奨する」とした2) 。
今回改訂されたロードマップに限らず、WHOが発出する推奨は、様々な社会背景の加盟国に配慮した内容となっている。一方で日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会が今回改訂した「考え方」は、まさにWHOが推奨している、国や地域ごとの「疾病負担、費用対効果、その他の保健やプログラム上の優先事項、機会費用などの要因」に基づいて決定されている。この「小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を、国内における小児へのCOVID-19ワクチン接種判断の参考としていただきたい。
【文献】
1)World Health Organization:SAGE updates COVID-19 vaccination guidance. 2023.
https://www.who.int/news/item/28-03-2023-sage-updates-covid-19-vaccination-guidance
2)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6 追補). 2023.
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20230609_vaccine_hoi.pdf
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[ワクチンロードマップ][日本小児科学会]