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【識者の眼】「危ない耳鳴、注意を向けないほうがよい耳鳴、誤解される耳鳴」森 浩一

No.5184 (2023年09月02日発行) P.60

森 浩一 (国立障害者リハビリテーションセンター顧問)

登録日: 2023-08-21

最終更新日: 2023-08-21

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成人の約1割に、高齢者では約3割に持続性の耳鳴がある1)。耳鳴は外からの音がないのに音が聞こえることである。実際に音がある場合と、音の感覚だけの場合がある2)

実音の耳鳴で最も警戒すべきは、心拍と同期している拍動性耳鳴である。原因として脳動脈瘤(切迫破裂)、動静脈瘻、頸動脈狭窄、脳圧亢進等の可能性があり、即刻MRAや超音波検査による原因探索が必要だ。

耳鼻科領域では、あるべき骨壁がなく、大血管の中耳腔への露出、内耳への脳脊髄圧の波及等の病態がある。滲出性中耳炎や耳垢塞栓等の伝音難聴で、体内拍動音が聞こえることもある。

心拍に同期しない体内音としては、顔面痙攣と咽頭クローヌスがあり、耳小骨筋の収縮や耳管の開閉による音がする。また、耳管開放症で自分の呼吸音が耳鳴として聞こえることがある。外耳道内異物が動くことでも耳鳴が生じ,毛髪、遊離した耳垢の塊、小昆虫等がある。

耳鳴のほとんどは物理的な音がなく、持続性で拍動しない。その多くは感音難聴に伴う3)。このような耳鳴の約半分は、脳が難聴を過剰に代償して生じるため、たとえ聴神経を切断しても残る。耳鳴のために聞き取りが悪いという訴えがよくあるが、実は難聴が原因で聞き取りにくいので、補聴が一石二鳥の対応になる。

耳鳴は治らないという誤解も多いが、急性耳鳴は半年以内に消失することも多い。慢性耳鳴に直接的に有効な薬物はない3)が、長期の自然経過では軽快・消失もけっこうある1)3)

耳鳴があると静寂にしようとする間違いもよくある。しかし静寂下では耳鳴は余計に目立つ。また、静かな環境にずっといると聴覚過敏にもなりやすい。むしろ、補聴し、夜間も含めて環境音を豊かにし、うるさくない程度の音量で耳鳴をあえて消さない部分遮蔽雑音を導入する等の「音響療法」が有効3)で、耳鳴の苦痛に即効性がある。これを「毒をもって毒を制す」と称する患者もいる。

難聴による耳鳴は一般には生命予後良好であるが、聴神経腫瘍も数%ある。また、不安障害、不眠、うつによって自殺する症例もあるので、これらの確認が必須で、丁寧な対応がいる4)。うつ症例の半数程度に耳鳴があるが、うつが治ると辛い耳鳴も消えることが多い。

治療としては、耳鳴についての教育的カウンセリング、音響療法、認知行動療法が推奨される3)。音の感覚は馴化しやすいので、耳鳴の理解と音響療法で耳鳴から意識をそらしやすくし、かつ耳鳴とストレスとの関連付け(古典的条件付け)を消去できれば、耳鳴が残っても問題ではなくなる5)

【文献】

1)森 浩一:JOHNS. 2019;35(1):7-8.

2)Tinnitus Research Initiative(TRI):TRI Flowchart For Patient Management.
https://www.tinnitusresearch.net/index.php/for-clinicians/diagnostic-flowchart

3)日本聴覚医学会: 耳鳴診療ガイドライン 2019年版. 金原出版, 2019.
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307371247
https://audiology-japan.jp/guideline/

4)大石直樹:日耳鼻会報. 2022;125(10):1505-8.
https://doi.org/10.3950/jibiinkotokeibu.125.10_1505

5)森 浩一:Audiology Japan. 2020;63(2):115-21.
https://doi.org/10.4295/audiology.63.115

森 浩一(国立障害者リハビリテーションセンター顧問)[拍動性耳鳴][うつ][音響療法][耳鳴診療ガイドライン]

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