この夏休み、中学生の子どもを連れて志摩にある病院の臨床実習に参加した。中学生、高校生相手の子どもの実習である。その病院では何年か前から、この実習を行なっており、ほぼ1週間単位でも参加できる。多くの高校生が参加し、それをきっかけに医療関係の仕事についた子もたくさんいると伺っている。私は添えものではあるが、訪問看護などに同行し、地方の地域医療の現場を久々に体験させてもらった。
子どもたちのプログラムは、検査室見学、訪問診療への同行、外来見学など、本人の事前の希望に従い1週間の予定がしっかりと組まれていた。それ以外に、受け持ちの患者さんを1人ずつ担当する、という義務があった。地域医療の病院なので、療養病床も多く、多くの患者さんはお年寄りである。リハビリ目的の入院や、急性期病院から自宅、または施設への退院の間のステップとして入院している人が多い。中には軽度の認知症を伴っている患者さんも多く見られた。1日目の回診に同行した実習生(中高生)たちは、この回診の最中に自分が受け持つ患者さんの候補を自分で見つけ、指導医に相談し、受け持ち患者さんを決める。受け持つ目的と課題は「患者さんを幸せにすること」。医療者ではないので、医療行為はできない。しかし、お話をする、一緒に折り紙を折る、痛いときは背中をさすってあげる、などできることは何でもよい。検査室へのつき添いなどは看護師と一緒にやる。ただ、このような意思決定には関わらないことばかりではなく、患者さんが考えていること、たとえば、本当に介護施設に行きたいのか、それとも、本当は家に帰りたいのか、など、患者さんは医療者には話さない本音を実習の子どもたちには語り出す。それによって、本当に物事の方向が変わることもある。
驚いたのは上記の子どもたちの働きだけではなく、子どもたち自身の変化である。高校生で参加していた子どもたちは、月曜日に拝見したときにはなんとも頼りなく見えたが、実習終了時には本当に力強く優しい医療者をめざす決意を固めていた。患者さんの心に寄り添うことをしっかりと学習していた。病院の実習体制も、医療者が本当に手間と時間をかけており、毎朝、毎夕、実習生の報告を聞き、方針を相談する会が持たれていた。
私たち医療者は日々の忙しさにより、このような患者さんの心に寄り添うことを忘れてしまっている人も多いことと思う。最初に接した医療が、このような実習であるときっと思い出す瞬間もあるのではないか。自分もいい体験をさせてもらった夏休みであった。
野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[中高生向け臨床実習]