〔要旨〕2023(令和5)年度から診療参加型臨床実習におけるStudent Doctorが公的化された。これに伴い,Student Doctorの質保証を目的とした共用試験(CBT)や臨床実習前客観的臨床能力試験(Pre-CC OSCE)も公的化された。公的化された診療参加型臨床実習では「処方箋発行」を除く医行為が指導医の下で許容される。医学部中高学年の学修者は「Student Doctor」から医師免許取得を経て「臨床研修医」となり,卒前卒後のさらなるシームレス化が期待されている。診療参加型臨床実習の医行為を分類した門田レポートでは,侵襲的行為のシミュレーション教育法による補完も推奨されている。さらに,診療参加型臨床実習の技能・態度面評価である臨床実習後OSCE(Post-CC OSCE)が導入された。すなわち,診療参加型臨床実習における総括的評価にも形成的評価にもシミュレーション教育が活用される。
本稿では,公的化された診療参加型臨床実習の位置づけについて概説し,臨床技能だけでなく医療安全,感染対策,情報管理に関する系統的準備教育の必要性について述べる。
わが国ではこれまで,医師免許を取得した後に,本格的な初期臨床研修が開始されていた。卒前臨床実習は見学型が主となることが多いため,初期臨床研修とのギャップが大きな課題であった1)2)。この原因としては,卒前臨床実習中の医学生による医行為に関連した法的根拠の不十分さが挙げられる。
国家資格を持たない医学生が,初期臨床研修医につながるレベルの医行為を施行するためには,「患者および医療安全の確保」と「基礎的臨床能力の質保証」を担保する必要がある3)。2005年から参加型臨床実習開始前に医学的知識を問う共用試験Computer-based Testing(CBT)と,主に技能および態度評価である臨床実習前客観的臨床能力試験(Pre-Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination:Pre-CC OSCE)が導入された。これらの総括的評価は,各大学でなく,第三者機関である医療系大学間共用試験実施評価機構(Common Achievement Tests Organiza-tion:CATO)により提供される4)。医学生は,CBTとPre-CC OSCEに合格することで,全国医学部長病院長会議から,「Student Doctor」として認証され,指導医の監視下での医行為が許容されていた。
これら卒前卒後臨床教育のシームレス化のさらなる発展を目的とし,医師養成課程の見直しが開始された。「医師国家試験の受験資格における共用試験合格の要件化」「医学生が臨床実習において行う医業の法的位置づけの明確化」の議論を経て,医師法(昭和23年法律第201号)の改正が行われ,CBTに合格した医学生は,臨床実習において患者の同意および指導医監督の下,処方箋発行を除く医業が可能とされた5)(表1)。
そして「医師法施行令の一部を改正する政令」(令和4年政令第131号)が公布され,2023(令和5)年度からStudent Doctorの公的化が開始された。すなわち,医学部中高学年の学修者は「Student Doctor」から医師免許取得を経て「臨床研修医」となり,さらなる卒前卒後臨床教育のシームレス化が期待されている。さらに,文部科学省でも医学生が卒業時に修得すべき必須の実践的診療能力(知識・技能・態度)に関する学修目標等を示した「医学教育モデル・コア・カリキュラム」が改訂され,2022(令和4)年度版として公開された6)。
本稿ではStudent Doctorの公的化に伴うPre-CC OSCEや臨床実習後OSCE(Post-CC OSCE)のあり方について述べる。そして,診療参加型臨床実習前後のシミュレーションを活用した臨床技能教育の重要性のみならず,医療安全,感染対策,情報管理教育に関する系統的準備教育の意義について述べる。