2022年度の児童相談所における子ども虐待の相談対応件数が21万件を超えた1)。このうち性虐待は2451件で全体の1.1%と横ばいで推移している。米国では全体の8.8%であり2)、日本の性虐待の相談対応件数割合は欧米と比較して圧倒的に少ない。そこには潜在する性虐待がかなりあることが示唆される。
性虐待の多くは顕在化しにくい背景がある。見知らぬ者からの一過性の性暴力は、身体や力の優位性から怒りや恐怖で支配し、暴力的な、時に外傷をきたすような方法で行われる。このため被害者が被害を打ち明けた際には、様々な支援を受けやすい。
一方で性虐待は、その多くが身近な者から継続的に行われる。その方法は子どもを手なずけるように(時に「遊び」として)、痛みが伴うような暴力によらず、徐々にその行為がエスカレートしていく。子ども自身がその行為の意味を理解していないこともあり、学校で性教育を受けて、自身が受けていた行為の意味を知ることもある。被害を打ち明けた際には、一過性の性暴力と異なり、周囲から否定されて支援につながらない事例も少なくない。
医師をはじめとする医療の専門職は、子どもから性虐待の被害の告白を受ける可能性がある。その際に注意すべき点は、「本当にそんなことがあったの?」など、子どもの告白を否定するような声がけをしないことである。また、その場で根掘り葉掘り話を聞くことはせず、子どもの語りを傾聴し、虐待対応につなげていくことが重要だ。子どもからの話の聞き取りについては、RIFCRTMという研修プログラムがあり、子どもに接する機会のある方には受講を勧めたい3)。
子どもからの告白がなかったとしても、性感染症を認める場合、子どもの性化行動(人形遊びの中で性行為の場面を再現するなど)を認める場合は性虐待を疑い、虐待対応につなげる必要がある。
児童虐待の防止等に関する法律の中で性虐待は「保護者が児童にわいせつな行為をすること、またはさせること」と保護者の行為として定義されており、きょうだいや知人からのわいせつな行為は「保護者のネグレクト」として扱われる。本来こどもまんなかであるべき制度がまだ日本では整っていない。昨今の大手芸能事務所における性加害問題の中でもこうした制度上の不備が議論されている。
私たち医療者は、だれでも性虐待の告白を受ける可能性がある。そのときに、最低限何をして、何をしてはいけないのか、は知っておく必要がある。
【文献】
1)こども家庭庁:令和5年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料. 2023年9月7日.
https://www.cfa.go.jp/councils/jisou-kaigi/r05/
2)U.S. Department of Health & Human Services:Child Maltreatment 2021.
https://www.acf.hhs.gov/cb/report/child-maltreatment-2021
3)チャイルドファーストジャパン:RIFCR™(リフカー)研修.
https://cfj.childfirst.or.jp/rifcr/
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[子ども虐待][児童虐待防止法][虐待対応]