最近消費者庁が、水筒を持ち歩くときの転倒事故について注意を呼びかけています。転倒したときに水筒がお腹に当たり、腹部鈍的外傷から内臓損傷に至る事例が報告されており、それを踏まえた注意喚起です。
腹部鈍的外傷とは、お腹に直接的な打撃を受けたり(蹴られる、物がお腹に強くぶつかる)、高所からの転落や交通事故などの高エネルギー外傷で複数の場所にケガを負ったりするときに起こる外傷です。一見お腹に大きなケガはなさそうに見えますが、実は内臓を損傷しているケースがあります。損傷臓器としては肝臓や脾臓、腎臓が多く、腹腔内出血から致命的となる可能性もあります。
腹部鈍的外傷は成人より小児に多いことがわかっています。小児は転倒しやすく、上手に受け身を取ることもできない点、成人よりも筋肉や皮下脂肪が薄いので衝撃から内臓を十分に守れない点、肝臓や脾臓が胸郭より相対的に大きいため、肋骨で守られていない部分が多い点が、重症化しやすい理由と考えられます。
腹部鈍的外傷の例として、今回は水筒が大きく取り上げられました。水筒による臓器損傷の事例は医療機関からも報告されており、日本小児科学会も注意喚起しています。細長い形状のため外力が1点に集まり、小さな力でも臓器損傷に至りやすいのです。しかし、水筒に限らず、転んだときにお腹の前方に固いものがあれば、どんな場合でもリスクがあります。
たとえば空手などの運動時のお腹へのパンチやキックによるケガ、ブランコや鉄棒への強打、跳び箱の角にぶつけたケースも報告されています。また自転車のハンドル外傷による腹部損傷も報告されています。運転操作を誤り、ハンドルの先端が胸やお腹にぶつかるケガです。ハンドル外傷は男児に多く、手術治療を必要とする可能性が高い点、医療機関までの受診にかかる時間が長めである点が指摘されています。単独事故が多いため、親が外見で大きなケガがないと判断した場合、ケガが過小評価される可能性や、子ども自身がケガを隠そうとして発見が遅れるからでしょうか。自転車ハンドル外傷には重症化リスクがある点はもっと知られるべきだと思っています。
転倒を完全に防ぐことはできず、お腹のケガを完全に防ぐことは難しいでしょう。手遅れにならないためには受診の目安を明確に示すことが重要です。具体的には以下の項目が挙げられます。
①打撲直後、もしくは1、2時間以内に吐いた
②症状はなく元気だが、お腹に打撲痕がある
③打撲後に顔色が悪い
④尿の色がいつもと違う
⑤打撲後も腹痛が続いている
が挙げられます。また、子ども自身に腹部打撲のリスクを知ってもらうことも重要です。
「お腹にはたくさんの大切な臓器が入っている」「転んだときにお腹を強くぶつけると、時間が経ってから具合が悪くなることがある」「転んだとき、体のどこに何をぶつけたのか、どんなふうに転んだかをすぐに大人に伝える」等を言い聞かせておくことも大事だと思います。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[腹部鈍的外傷]