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【識者の眼】「リハ室という世界」岩田健太郎

No.5191 (2023年10月21日発行) P.66

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2023-10-04

最終更新日: 2023-10-04

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前十字靭帯(ACL)を断裂し、6月に手術を受けた。リハビリに励んでいる。

リハは僕の性分に合っている。鋭意、与えられたプログラムをこなし、術後3カ月たち、ようやくユルユルとジョギングもできるようになった。

なんでリハと相性が良いかというと、ぼくがアウトカム至上主義者だからだ。アウトカム(結果)は大事だ。「機能回復、競技復帰」という非常に分かりやすいアウトカムを設定する。競技復帰までは8、9カ月かかる。そこから逆算し、「今、ここ」で何をすべきか、何をすべきでないかが科学的に推定され、その推定に基づいてリハ・プログラムが組まれる。そこには斟酌も、忖度も、根性も、怨念も、気遣いも、観念論もない。アンダートレーニングでは目標を達成できない。根性丸出しでオーバートレーニングをすると、回復は遅れ、最悪の場合は再断裂など復帰を不可能にする。ただただ科学的に、合理的に、必要なことをやり、不要なことをやらない。やった結果はすぐにプログラムの達成という形で返ってくる。論理的で、合理的で、生産的で、実にいい。専門知をもったプロの理学療法士や整形外科医との連携もとても楽しいし、勉強になる。

アウトカムが分かりやすい、ということは、成功、失敗の判定も実に容易だということだ。そこにはごまかしは効かない。プロも適切なリハを提供する必要があるし、そのリハが適切だったかどうかは結果が教えてくれる。僕もまた、プロのアドバイスを忠実に守って結果を出す。実に素晴らしい。

翻って、内科領域は往々にして何が成功で何が失敗かが分かりにくいことが多い。いや、本当は分かっている。それがいわゆる「ハードエビデンス」だ。しかし、日本ではEBMを十分に勉強していない医者が多いから、「エビデンス」はしばしば無視される。サロゲートマーカーに過ぎないCRPだのに振り回される。もちろん、そこには内科疾患特有の「経過の長さ」もある。数十年先の生死といったハードアウトカムは体得し難い。

よく「医療に勝ち負けはない」などという人がいるが間違いだ。明らかに勝ち負けはある。勝ち負けがないのは、目標設定がないからだ。霞が関行政と同じですね。

例えば、「苦痛のない逝去」だって立派な目標だ。患者と医者が同じ方向を向き、ちゃんと目標を設定することは可能だ。そして必要だ。そうすれば医療はもっと合理的になり、そして楽しくなるはずだ。目標大事。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[アウトカム設定]

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