レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)は一般的に、他降圧薬に比べ腎保護作用が大きいと認識されている。しかし腎機能がさほど低下していない早期高血圧例であれば、腎保護作用は非RAS-i降圧薬を上回らず、逆にARBでは劣る可能性もあるようだ。プライマリケア大規模観察研究の結果として、シンガポール国立大学のQiao Gao氏らが12月1日、Scientific Reports誌で報告した。
なお、わが国の高血圧ガイドラインでは、蛋白尿のないCKD例に対する第一選択薬として、RAS-i、Ca拮抗薬、チアジド系利尿薬が併記されている。
今回解析対象となったのはシンガポール在住の、降圧薬単剤で治療を開始し、治療開始時とその後の推算糸球体濾過率(eGFR)が明らかだった1万9499例である。プライマリケア・ネットワークの診療記録から抽出した。平均年齢は64.1歳、43.5%が男性だった。
なお降圧薬はACE阻害薬とARB、β遮断薬、Ca拮抗薬、利尿薬に限定した。また試験開始後に他剤を追加併用した例、SGLT2阻害薬併用例は除外されている。降圧薬の内訳は、19.6%がACE阻害薬群、16.3%がARB群、残り64.1%がβ遮断薬・Ca拮抗薬・利尿薬(非RAS-i降圧薬)群だった。
CKDステージは服用降圧薬を問わず、80%以上がステージG1、2だった。また糖尿病合併率はACE阻害薬群が62.9%、ARB群が57.0%、非RAS-i降圧薬群が14.3%と、RAS-i開始例で多い傾向を認めた。ただしそれ以外の背景因子に大きなバラツキはない。
これら1万9499例で、「eGFRの推移」(絶対値の変化とCKDステージ進展)を比較した。治療開始時の背景因子はIPTW(逆確率重み付け)法で補正した。観察期間中央値は5年間だった。
まず降圧薬開始後のeGFRの変化は、ACE阻害薬群、ARB群、非RAS-i降圧薬群を問わず、同様の推移パターンを認めた。具体的には、(1)試験開始後1年間はほぼ変化なく、(2)その後2年目まではおよそ5mL/分/1.73m2の増加、(3)さらにその後は漸次低下し、服用開始5年後には服用開始時近くまで低下―というパターンである。
ただし開始5年間後の到達eGFRには、薬剤間に小さいながら有意差があった。(到達値が高い順に、非RAS-i降圧薬群>ACE阻害薬群>ARB群)。すなわち、
(1)ARB群はACE阻害薬群に比べ1.67mL/分/1.73m2、非RAS-i降圧薬と比べても1.96mL/分/1.73m2の有意低値だった。
(2)またACE阻害薬群も非RAS-i降圧薬群に比べると1.01mL/分/1.73m2、有意に低かった(いずれもP<0.05)。
一方、「eGFRが1つ上のCKDステージへ増悪」するハザード比(HR)は、
(1)ACE阻害薬と非RAS-i降圧薬間では有意差がなかった一方、
(2)ARB群はACE阻害薬群、非RAS-i降圧薬群のいずれと比べても、有意に高くなっていた。
「HR:95%信頼区間」は順に「1.14:1.04-1.23」と「1.10:1.01-1.20」である。
eGFR維持においてRAS-iは他の降圧薬に優越していなかった、とGao氏らは結論している。
本研究はシンガポール政府機関から資金提供を受けて実施された。