入院していた患者や手術を受けた患者から、「いつから自動車を運転していいですか?」という質問を受けることがあります。脳卒中患者や一般的な手術を受けた患者が、治療からどのくらい経てから運転してよいかについて、わが国では法律に明記されていません。
学会のガイドラインをもとに運転制限期間について運用指針があるのは、植込み型除細動器植込み術後についてのみです。ペースメーカーの植込み術後では、自動車運転は許可されています。しかし、植込み型除細動器植込み術後は原則禁止で、指定医師による許可制となります。その際に、一次予防目的の植込み術後であれば1週間、二次予防目的の術後であれば6カ月間運転禁止と定められています。
整形外科手術後については、法律で運転制限期間について定められていませんが、内外で様々なエビデンスがあります。判断基準は、上肢ではハンドルやレバーを適切に操作できる能力、下肢では座位を維持しアクセルおよびブレーキペダルを遅滞なく操作できる能力です。
まず上肢は、三角巾で利き手を固定している状態、肘関節を含む上腕からの外固定の状態では、運転は推奨されません。前腕キャストやスプリント装着の状態でも運転に支障をきたすことがあると報告されており、特に利き手を固定している場合には、運転は推奨されません。また、三角巾などによる固定が除去された後でも、肩関節の屈曲や肩甲骨の挙上が不十分な状態では、ハンドルを回旋させる動作に支障をきたします。したがって、リハビリテーションの過程でハンドル操作能力が十分か否かを見きわめなければなりません。
次に下肢は、ペダル操作を行う右下肢について、人工股関節全置換術・人工膝関節全置換術・前十字靱帯再建術後は4~6週間、大腿骨・脛骨・腓骨骨幹部骨折、膝関節内骨折の手術後では荷重開始から6週間、足関節骨折では手術後9週間程度制限することが望ましいとされています。ペダルの踏み替え時には、主として大腿直筋、大腿二頭筋、全脛骨筋、ヒラメ筋が関与します。特に足関節の動きが重要となるため、足関節手術後の期間が最も長くなります。
同様に、脳卒中後の自動車運転再開時期についても法律で明記されていません。したがって、主治医が個々の患者における認知、判断および操作能力を確認して、運転再開の可否を判断しなければなりません。筆者らの調査では、仕事で運転が必要な方ほど、脳卒中後に早く運転を再開できていることがわかりました。このように、本人の意志も運転再開時期に関係しているようです。
諸外国では、脳卒中後の運転中止期間が法律で明記されています。イギリスやオーストラリアの法律では、脳卒中発症後4週間は運転禁止で、職業運転ならば3カ月禁止と定められています。
自動車運転は社会参加における重要な手段です。一方で、十分な運転能力がない人が自動車運転を行うことは危険です。医師は、患者の状態を十分に把握した上での適切な助言が求められます。