機能性表示食品制度がスタートしてもうじき9年となる。当該制度は事業者の責任において科学的根拠に基づき食品に機能性を表示できる仕組みであり、特定保健用食品(トクホ)と比べて自由度が高いことで注目されてきた。
だが、筆者は制度が始まるにあたっての消費者庁による説明会に参加したことがあるが、安易な表示は認めないという強い意志が担当者の言葉の端々から感じ取れた。特に多くの事業者が切望していた「免疫」に関しては、表示することが不可能であるかのような印象を受けたことを忘れない。しかし、2020年にキリンビバレッジ(株)から「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」と表示する旨の届出が受理されたことを皮切りに、原稿執筆時(2024年1月30日)には免疫に関する表示が含まれている届出商品が約100件に上っている。
そして最近、糖尿病の診断や血糖コントロールの指標として馴染みのある「HbA1c」を表示に盛り込んだ商品の届出が受理されていることを知った。具体的には「BMIが高めの健康な方の、健常域で高めのHbA1c値(血糖コントロールの指標)の低下をサポートする機能」となっている。消費者庁のサイトを確認してみると、表示の根拠は1報のランダム化比較試験であった1)。機能性の評価方法としては、機能性関与成分に関する研究レビューによる形を取っているが、最終的に採用された論文が1報のみであったという結果になっている。また、消費者庁に届出された資料にも記載されているが、当該論文の著者に製造販売企業(小林製薬)の研究員が名を連ねており、臨床試験そのものも同企業が実施している。これは、いわゆる利益相反の状態であるが、筆者は本件について公開のルールに則っており問題ないととらえている。
参考までに臨床試験の具体的な内容と結果について紹介する。対象は空腹時血糖値が125mg/dL以下かつHbA1cが5.6〜6.4%の健常者。被験食品群(n=30)とプラセボ群(n=30)に割り付け、1回2粒を1日3回毎食前に12週間摂取し、HbA1cの値を群間比較するランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験。結果は、全体として群間差は認められなかったが、BMIが中央値以上の者(被験食品群 n=15、プラセボ群 n=15)でサブグループ解析した結果、群間差が確認された(12週後のHbA1c:被験食品群 5.85%、プラセボ群 5.91%、P=0.023)。
読者の先生方の中には、いろいろとツッコミを入れたくなった人もいるかもしれない。しかし現実に目を向けてみると、Yahoo! JAPANで「糖尿病 健康食品 治る」で検索すれば約180万件の情報がヒットし、科学的な裏付けもなく健康食品が紹介されている実態がある。今後、悪貨が良貨を駆逐してしまうかのように機能性表示食品制度が尻すぼみになってしまわないよう、適切な形で制度がより良く利活用されることを個人的には期待する。
※筆者とキリンビバレッジ(株)、小林製薬(株)との間に開示すべき利益相反はない。
【文献】
1)濱崎遥香, 他:薬理と治療. 2022;50(6):1121-9.
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法㊿]