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【識者の眼】「地域包括ケア時代の高齢者就労とその多面的意義①」藤原佳典

No.5212 (2024年03月16日発行) P.57

藤原佳典 (東京都健康長寿医療センター研究所副所長)

登録日: 2024-02-26

最終更新日: 2024-02-26

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近年、高齢になっても仕事を続けている患者は少なくない。確かに、2022年の総務省労働力調査による2021年の労働力人口比率(人口に占める労働力人口の割合)を見ると、65〜69歳では52.0%、70〜74歳では33.9%、75歳以上でも11.0%である。このように、高齢患者=介護保険サービス受給者や年金生活、時間に余裕があるといったステレオタイプではなく、実臨床においても現役世代と同様に接するべき場面があろう。本連載稿では、高齢期の就労の現状と課題、さらには今後の展望について、筆者らの研究成果をふまえて考察したい。

少子・超高齢社会、人口減少が進展する状況下で、高齢期の就労は不足する労働力の補完としてや、社会保障の受給者から納税者へと転じることへの期待が大きい。 

一方では、高齢期の就労は、本人にとっても心身の健康維持や社会参加の手段といったポジティブな側面が期待される。それゆえ、近年、自治体においては産業振興部局のみならず、地域包括ケアシステムを主管する高齢者福祉部局においても高齢者の就労を支援する事業が増えている。

これまで、高齢期の就労が心身の健康に及ぼす影響については多数研究されてきた。筆者らのシステマティックレビューによると、高齢期の就労は総死亡をアウトカムにした14件の論文の内、13件で総死亡を抑制することが示されている。

筆者らの首都圏ベッドタウンにおける4年間のコホート研究によると、定年以降も働いていた人が退職した場合に比べて就労を継続する場合はフルタイム、パートタイムともに健康維持に有効であった。定年以降の就労からの離脱により精神健康は初期2年以内に短期的に低下し、生活機能は4年にわたり徐々に低下することが示された。

わが国の特定地域をフィールドとした研究においても、概して就労は健康に好影響をもたらすとの結論で一致している。たとえば、首都圏のニュータウンにおける追跡研究では3年後の生存率を上昇させるとする報告がある。また、筆者らは農村部と都市部における8年間の長期追跡により、男性では地域にかかわらず、基本的日常生活動作能力(BADL)の低下を有意に抑制したことを報告した。

一方では、元気な高齢者のみが就労でき、その効果も限定されると考えられがちである。

そこで次号では、高齢者の就労状況とフレイルの有無が要介護認定を受けるリスクに及ぼす影響や、高齢期の望ましい就労のあり方について論じることとする。

藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所副所長)[高齢者就労][健康]

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