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【識者の眼】「美容外科での合併症の医療体制を明確にしてほしい」薬師寺泰匡

No.5213 (2024年03月23日発行) P.58

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2024-02-28

最終更新日: 2024-02-28

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大阪市の美容クリニックで、脂肪吸引手術を受けた男性が翌日に死亡し、執刀医が業務上過失致死の疑いで書類送検されたということが先日報道されていた。出血が原因で気道を圧迫して窒息死したものと考えられる。術後の合併症に対して、救急科として生命維持に努めなくてはならないと考える一方で、スムーズにことが運びにくいのが現状である。

何度か美容医療後の合併症を救急外来で対応したが、困ることが2点ある。まずは、美容外科との医療連携がとりにくいこと。入院機能を持たないクリニックで手術がなされた場合、夜間当該クリニックと連絡がつかないことが多い。行われた手技の詳細がわからず、基本的には対症療法を行うのみとはなるが、診療をどこまでその場で行うべきか非常に悩ましい。たとえば創部の感染が疑われるような場合に、その場で再度創を開いてしまってよいか。できれば執刀医と協議したいところである。普段から有事の受け入れ先として連携を取っておくとか、合併症に備えた紹介状を持たせておくとか、コミュニケーションを持つ機会が必要ではなかろうか。

もう1点は医療費のことである。美容外科医療による合併症は、第三者行為による傷病(事故)扱いとなり、保険の対象とならないのが一般的である。交通事故であれば自動車賠償責任保険で治療費が払われ、こちらも最初からそのつもりで対応をするが、美容外科医療での事故では治療費を誰にどう請求するか悩ましい。患者には健康保険と同じように診療を行って治療費を請求しつつ、第三者行為による傷病届を提出してもらうことになるのだろうか。ただ、集中治療室での診療を行うなど高額になった場合、相当な金額がクリニックに請求されることになる。どこまで介入すべきか、できれば治療開始時に主治医と話をしたいというのが正直なところである。また、合併症の治療を、自由診療の延長で行う診療だという視点で見ると、混合診療を勝手に解禁してしまってよいのか、という疑問も出る。美容医療には一般的な医師賠償責任保険は適用されない。学会等の主導で合併症の治療を不安なく行える制度をつくれないものか。

国内での事例はまだよい。海外で手術をして、帰国後に出血が止まらないとか、感染症が悪化したといった例も経験してきた。術後すぐ帰国するようなツアーもあり、合併症に真摯に向き合っているようには到底思えない。何らかの救済措置が必要であろうし、事前に合併症に対してどのように補償されるのか、診療がなされるのか、というのを明確にしておく必要があろう。治療以外での問題点を抱えることになるので、こうした美容外科医療の合併症を持つ患者は、救急要請した場合に搬送困難に陥ることも懸念される。コンセンサスの醸成が急務である。

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[医療連携医療費

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