気管挿管を行う際、喉頭鏡を用いることになるのだが、近年はブレードにカメラがついているビデオ喉頭鏡が台頭している。コロナ禍においても、口腔内を覗き込まなくてすむため、大変重宝した。
ビデオ喉頭鏡の最大のメリットは、喉頭の視認性にある。喉頭展開がむずかしい場合でも、確実に喉頭蓋をとらえ、気管にチューブが挿入されていることを確認できる。さらには、挿管を補助する者も同時に観察することが可能である。教育の面では安全性担保にもつながり、非常に有用であることを実感している。
当然、挿管の成功率が高まりそうなものではあるが、救急外来における無作為化比較試験(RCT)において、ビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡との間で初回挿管成功率に差がなかったとする文献もあり、議論の余地を残していた1)。
救急外来や集中治療室における気管挿管は、予定手術における気管挿管のように事前に準備ができていたり、患者の解剖学的な特徴を十分加味した準備ができていたりするわけではない。はたして、そのような状況であっても初回挿管成功率の向上に寄与するのかどうかというところが臨床上の疑問であった。
このような状況であったが、この度救急外来と集中治療室に限定したRCTをまとめたメタアナリシスが報告された2)。14件のRCTから3981例の患者が組み入れられ、2002例がビデオ喉頭鏡、1979例が直接喉頭鏡に割り付けられた。結果としては、ビデオ喉頭鏡の使用は初回挿管成功数を優位に増加させるということであった(RR:1.12、95%CI:1.04〜1.20)。また食道挿管や吸引の頻度も下がり、より安全な挿管ができることも示唆された。
個人レベルの話で言えば、ビデオ喉頭鏡でなければ気管挿管ができなかったというような経験はない(ビデオ喉頭鏡でも不可能という状況は何例か経験があるが、ファイバースコープを用いるなど、完全に別な手段を要する)。喉頭展開を適切に行えることが大前提であり、適切に施行すれば直接喉頭鏡は効果的に使用可能である。おそらく私より先輩に当たる医師は、同じような感覚ではないかと思われる。
しかし、近年大学病院を中心に、教育医療機関では基本的にビデオ喉頭鏡を使用しており、学生や研修医はそれを用いて学んでいる。直接喉頭鏡を持ったことがない研修医もめずらしくない。初回挿管成功率は予後に関わる因子であり、当然これの改善が求められる。今後、ビデオ喉頭鏡への移行は、標準的な医療の提供という意味で、必要条件として求められるのではないか。とはいえ、高価であることも確かであり、気管挿管に使用したデバイスにより診療報酬が変わるなど、何らかの措置を求めたい。
【文献】
1)Sulser S, et al:Eur J Anaesthesiol. 2016;33(12):943-8.
2)Araújo B, et al:Crit Care. 2024;28(1):1. doi:10.1186/s13054-023-04727-9
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[RCT][初回挿管成功率]