掌蹠角化症は,掌蹠の過角化を特徴とする。先天性の掌蹠角化症は,掌蹠の皮膚に限局するものがほとんどだが,稀に他臓器病変を合併するものもある。後天性のものは,薬剤性,悪性腫瘍や甲状腺機能低下症に伴うものなど,様々である。本稿では遺伝性掌蹠角化症について述べる。
掌蹠の過角化を有し,ウイルス性疣贅や胼胝等を除外して,臨床的に診断する。過角化の性状や家族歴,他臓器病変の合併などにより病型を分類する。遺伝性かつ非症候性の掌蹠角化症は,過角化の分布パターンによりびまん性,限局性,点状掌蹠角化症に分類できる1)。
びまん性掌蹠角化症には,長島型,Meleda型,Bothnia型,Vörner型(Unna-Thost型)などがある。わが国では長島型掌蹠角化症が最も多く,原因遺伝子はSERPINB7で,常染色体潜性遺伝性である2)。日本人の50人に1人が保因者で罹患率は約1万人に1人と推定され,外来診療において十分に遭遇しうる疾患である。
臨床像は,掌蹠の潮紅を伴う軽度の角化,多汗,悪臭,水浸時の病変部白色浸軟変化を特徴とする。掌蹠から連続して手背・指背・手首内側・足背・趾背・アキレス腱部まで潮紅が広がるtransgrediensを示す。生後半年から遅くとも2歳までには症状が現れ,年齢とともに掌蹠角化が多少増強するが,大きくは変化しない。なお,皮膚以外の病変は知られていない。
確定診断は,SERPINB7の両アレルに病的バリアントを同定することだが,遺伝学的検査は保険診療では行えず,大学病院などで研究目的でしか調べることができない。日常診療では,入浴時やプールで手足が白く変化するかを問診し,診察室で手足をぬるま湯に10分ほど浸して,病変部が白色浸軟変化をきたすかどうかを確認することが,本症の臨床診断に有用である。AQP5の病的バリアントによるBothnia型も浸水による白色浸軟変化をきたすが,日本人には非常に稀である。
鑑別診断:アトピー性皮膚炎や乾癬などの全身性皮膚疾患の一症状として見逃されることや,反対にアトピー性皮膚炎と誤診されて間違った治療をされていることがあり,注意が必要である。また,手足の接触皮膚炎との鑑別や,足白癬の合併にも留意する。
限局性掌蹠角化症は,掌蹠の加重部位や被刺激部位を中心に,線状や円形の角化性病変がみられる。先天性爪甲厚硬症では,掌蹠の限局性の過角化に加えて,著明な爪甲肥厚や毛孔性角化,口腔粘膜の白板症を伴う。いずれも常染色体顕性遺伝性であるが,孤発例も多い。
点状掌蹠角化症は,掌蹠に点状の過角化病変が青年期以降に生じる。内臓悪性腫瘍が合併するCowden病の一症状として現れることもある。
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