2024年は北里柴三郎イヤーですので、今回は北里柴三郎先生の血清療法から学ぶ“効く”についてお話します。
“効く”とはなんでしょうか? ネットで検索すると、「効果や働きなどが現れる」「期待通りのよい結果が実現する」「効き目がある」とか出てきます。
アカデミアにおける“効く”は統計学的にきちんと定義された結果であり、しかもその表現は実は厳密に決められています。具体的には、有効の英語:Efficacy、Effectiveness、Effectは明確に区別されています。Efficacyとは「理想的な環境や条件下における、有効性」であり、対象患者が限定されているランダム化比較試験(RCT)の場合に使用されます。Effectivenessとは 「現実的な環境や条件下における、有効性」であり、real-world data、つまり観察研究の解析結果の場合に使用されます。最後にEffectは、日本人が論文のタイトルで使用することが大好きな有効性の言葉ですが、実は上記の2つの有効性とは異なり、明確にこれとは規定されていません。
では、北里柴三郎先生が考案した血清療法の“効く”はどのようなものなのでしょうか? たとえば、重症ヤマカガシ咬傷の場合には、咬傷後数時間は創部からの出血が持続し、フィブリノゲン値は測定限界以下、線溶のマーカーであるFDPは1000μg/mL程度を呈します。この状態にヤマカガシ抗毒素を投与すると、創部からの出血は止まり、フィブリノゲン値は自然回復し、FDP値は減少します。劇的な効果を確認することができ、これが“効く”ということだと体感します。また、ジフテリア抗毒素を考案した当初の記録では、それまではジフテリアの死亡率が62%であったのに対して9%程度まで、実に53%減少させた結果が残っています(抗菌薬もない時代の話ですが……)。もちろんこの現代で血清療法を臨床展開している私自身には途方もないくらいのバイアスがかかっているわけですが、私の中で臨床的に“効く”というのはこれくらいの効果が“効く”であり、その“効く”にこだわっていきたいと思っています。
“効く”は医師にとって最も重要な言葉の1つですので、この機会に先生方にとっての“効く”を考えてみるのも面白いと思います。
一二三 亨(聖路加国際病院救急科医長)[Efficacy][Effectiveness][Effect]