わが国における1990〜2000年代の予防接種プログラムは他国と大きく異なっていたため、「Vaccine Gap」と呼ばれていた。近年、国内における「Vaccine Gap」の多くは改善され、ようやく世界基準のワクチン接種体制が整ってきている。一方で、未解決のままとなっている「Vaccine Gap」の1つが、不活化ワクチンの接種方法である。国際的には、不活化ワクチンを接種する際は、皮下接種と比較し、局所反応のリスクが低く、高い免疫原性が期待できる筋肉内接種が採用されている。しかし国内においては1970年代に解熱薬や抗菌薬の筋肉内投与によって大腿四頭筋拘縮症が発生した後、今日まで、不活化ワクチンを含むほぼすべてのワクチンで皮下接種を用いてきた。
2024年4月より、5種混合ワクチン(diphtheria,tetanus,acellular pertussis-inactivated polio-Hib vaccine:DTaP-IPV-Hib)(ゴービック®、クイントバック®)、および沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(15-valent pneumococcal conjugate vaccine:PCV15)(バクニュバンス®)が、小児を対象とした定期接種ワクチンとして使用可能となった。これらのワクチンは不活化ワクチンに分類されるが、筋肉内接種と皮下接種のどちらでも選択が可能である。筆者としては、待ちに待った「Vaccine Gap」解決の機会であるが、一部の医療機関では、接種間違い防止や、筋肉内接種は皮下接種よりも痛い、という思い込みなどから、依然として従来通りの皮下接種が選択されていると聞く。確かに、筋肉内接種導入に際しては、年齢や体型により適切な接種部位や針の長さを選択する必要があり、筋肉内接種に慣れていない日本の医療従事者が導入に躊躇する気持ちは十分理解できる。一方で、一般的に不活化ワクチンの接種方法として皮下接種よりも筋肉内接種のほうが優れていることは事実であり、また各ワクチンの有効性や安全性をグローバルデータと比較する際、国内でのみ行われている不活化ワクチンの皮下接種により得られた情報は、それらと比較することができないなどのデメリットもある。
筆者はこれまでも、たとえば10歳以上に対するB型肝炎ワクチンなど、皮下接種と筋肉内接種の両者が選択可能なワクチンはすべて筋肉内接種を選択してきた。国内に残存する「Vaccine Gap」解消に向けて、乳幼児にDTaP-IPV-HibやPCV15を接種する際には積極的に筋肉内接種を選択していただきたい。
小児に対するワクチンの筋肉内接種法については、日本小児科学会がわかりやすい提言を公開している1)。
【文献】
1)日本小児科学会公式サイト:小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂第3版). (2024年4月)
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240401_kinchu.pdf
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[Vaccine Gap][不活化ワクチン]