PTSD(post-traumatic stress disorder)は,身体や生命への重大な脅威となる心的外傷(トラウマ)体験後,その出来事に関する再体験・回避・侵入症状や過覚醒症状などが1カ月以上続く精神疾患である。生後1年以降のどの年齢でも起こりうる。成人の半数では発症から3カ月以内に回復するが,数十年にわたって持続する場合もある。
米国精神医学会による診断分類であるDSM-5では,災害,テロ,戦争,監禁,身体的・性的暴力などによる死の脅威や重篤なけがを直接体験したり,直に目撃したり,あるいは家族や親しい人が体験したと伝え聞いたり,職務遂行中に心的外傷的出来事の細部に繰り返し曝露されたりしたことによって,侵入症状(反復的で苦痛な記憶・悪夢・解離性フラッシュバックなど),それらの出来事に関連する苦痛な記憶・感情やそれに結びつくもの(人・場所・行動など)に対する持続的な回避,認知や気分の低下(解離性健忘・自己や世界に対する否定的な信念や孤立感など),過覚醒症状(攻撃性・無謀な自己破壊的行動・過度な警戒心や驚愕・集中困難・睡眠障害など)が1カ月以上続き,そのために社会的・職業的・家庭的な生活などに著しい支障をきたしていることが診断要件となる。
一方,WHOによるICD-11ではDSM-5と異なり,より中核的な症状に絞られ,認知や気分の低下,過覚醒症状の集中困難や睡眠障害は診断要件には含まれていない。
まず,「心的外傷体験に曝露された直後,PTSD類似の症状が出現することがあるが,それは一過性の反応であり,多くは1カ月以内で治まる」などの心理教育を行うことによって,被害者の不安を和らげる。なお,症状評価の補助手段として,自記式質問紙法の「改訂出来事インパクト尺度(impact of event scale-revised:IES-R)」などの使用は患者の負担も少なく,有効である。
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