学習障害(learning disorder:LD)は『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引』では,限局性学習症/限局性学習障害(specific learning disorder:SLD)と称される。全般的知的能力が平均域以上であり,学習環境に問題がないにもかかわらず,読字,書字,計算,数的概念など,特定の領域における学習の習得困難を示す。読字障害(発達性ディスレクシア,発達性読み書き障害),書字障害,算数障害などに分類される。
知能が平均域以上にもかかわらず,特定の領域での学習の習得が学年相当ではない状態を診断する。
読字障害を呈する例が最も多く,読みの正確性,流暢性(速度)に問題を認める。通常,読字だけでなく書字障害も伴う。病態生理として言語障害や音韻障害が主たる原因と考えられている。音韻障害とは音(音素・モーラ)の認識と分割に困難があり,文字(綴り字)との対応づけを習得できない状態と考えられており,左側頭・頭頂移行部の機能異常とされる。
書字障害は読みに異常がなく,日本語話者では漢字書字でつまずくことが多い。綴り字の正確さ,文法や句読点の正確さ,文章の構成能力などに遅れを認める。漢字の書字困難は,漢字圏特有であり,アルファベット語圏とは別の病態が関与している可能性がある。漢字書字困難のタイプには視覚記銘力困難,図形構成力困難,書字の継次処理困難,不器用,持続的注意の困難などがある。
算数障害は,特に算数の習得で必要な計算,図形や空間の認知,算数的推論などに支障をきたす状態である。読字障害に合併することが多い。基本的に2学年以上の遅れがある場合に診断されるが,慎重な経過観察が必要なケースもある。
LD児では,注意欠如・多動症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)や自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)の併存も多い。特にADHDは不注意優性タイプもあり,LDの併存に気づかれないこともある。また,学習困難のため学校での不適切な対応や失敗体験のため自尊感情が低下し,抑うつや不安症など二次障害を起こしやすく,不登校の原因となることもある。さらに,発達性協調運動障害(developmental coordination disorder:DCD)の併存も多い。
知的障害の除外が必要で,知能検査は必須である。小・中学生はWISC-Ⅳや最新のWISC-Ⅴ知能検査が用いられる。学習の習得度の判定には,Kaufman Assessment Battery for Children第2版(日本版KABC-Ⅱ)のことばの読み,書き,文の理解,算数の到達度などがよい。読字障害の判定は 「特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン」のひらがな音読検査,改訂版標準読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)などがある。知的能力が平均域以上で,読字の正確性,速度などに異常があるときは読字障害を疑う。算数障害では数処理,数概念,計算や文章題の困難さを確認する。いずれにせよLDについては総合的な診断が重要である。
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