【概要】厚労省は14年度改定で大幅引下げとなった在宅の「同一建物」の影響調査速報を公表した。集合住宅への影響が懸念されたが、必要な医療は確保されていることが明らかとなった。
中医協総会(森田朗会長)は12月24日、2014年度診療報酬改定の「同一建物同一日の訪問診療等の適正化による影響調査」の速報を巡り議論した。現場への影響が大きいとして、他の改定項目に先んじて実施された同調査からは、改定後に集合住宅等への訪問診療から撤退した医療機関が一定数見られたものの、必要な医療は確保されている現状が明らかとなり、14年度改定による訪問診療等の適正化が地域の在宅医療の提供に与えた影響は軽微である、との見方で概ね一致した。
同調査(別掲)は昨年8月から10月、医療機関と集合住宅を対象に実施。医療機関調査は、(1)在宅療養支援診療所(1500施設)、(2)在宅療養支援病院(500施設)、(3)在宅時医学総合管理料または特定施設入居時等医学総合管理料の届出施設(500施設)─の計2500施設を対象とし、計755施設(有効回答率30.2%、病院161施設、診療所593施設、無回答1施設)から有効回答を得た。集合住宅調査は2000施設に実施、792施設(有効回答率39.6%)から有効回答を得た。
●収入減「大いにあてはまる」が4分の1
医療機関調査では、訪問診療関連の収入が減ったとの質問に「大いにあてはまる」「あてはまる」と回答したのは診療所が41.3%、病院が40.1%となり、「まったくあてはまらない」「あまりあてはまらない」と回答した診療所38.0%、病院37.4%をそれぞれ上回った。そのうち「大いにあてはまる」と回答した診療所は27.4%、病院は23.1%に上り、経営面への影響は小さくないと言えそうだ。
14年度改定では、集合住宅などに入居する高齢者に対する訪問診療の不適切事例が一部で横行していることが問題視され、「同一建物同一日」の訪問診療料が半減、在医総管・特医総管は4分の1へと大幅に引き下げられた。今回の大幅引下げにより、集合住宅への訪問診療から撤退する医療機関の増加など現場への影響が懸念されたため、3月には算定要件に緩和措置が設けられたことに加え、在宅患者訪問診療料2を算定する際に記載する「別紙様式14」が実質的廃止となっている。
●患者紹介ビジネスは依然横行か
集合住宅への調査では、「訪問診療・往診を行っている病院・診療所が減った」と回答したのは、792施設中59施設。そのうち38施設が医療機関側の都合で訪問診療等を取りやめたが、他の医療機関が訪問診療を実施するなど、概ね必要な医療は確保されていることが明らかとなった。撤退により引き受け先が見つからず「都道府県等に相談したが、目途が立っていない」は1施設のみだった。
また、療養担当規則で禁止された「患者紹介に伴う経済上の利益提供契約」を行っている施設については、診療所では改定前の1.3%から0.2%に減少し、病院では改定前後とも0%という結果となった一方、無回答が診療所では7.3%から10.1%に、病院でも7.5%から9.9%に増え、依然として患者紹介ビジネスが横行している現状が窺える。
●「改定の方向性には妥当性あった」
こうした報告を受け、同日の会合では今改定の方向性が支持された。鈴木邦彦委員(日医)は「一部医療機関の撤退はあったが、必要な医療は確保されている。また、同一建物の患者は認知症が多いものの要介護度は低く、健康相談や血圧・脈拍の測定、服薬援助・管理のみにとどまる例が多い。訪問時間も短く、改定の方向性には妥当性があったと言える。収入が減ったとの声はあるが、在宅全体に影響を及ぼすほどとは言えず、在宅医療を適切に推進すべく、次の改定に向け議論していくことが必要」と述べた。
●日医調査で地域包括診療加算の算定は6.5%
14年度改定に関してはこのほか、日本医師会も12月17日の会見で、診療所を対象に実施したかかりつけ医機能と在宅医療についての調査結果(右表)を公表。「主治医機能」の評価として新たに導入された「地域包括診療料/加算」は、14年9月末時点で同診療料を算定した診療所が0.1%、同加算は6.5%にとどまることが明らかとなった。アンケート調査は2014年10月10日から11月7日にかけて、日医会員のうち、診療所開設者・管理者から無作為に抽出した3413人を対象に実施、1519人(有効回答率44.5%)から有効回答を得た。
かかりつけ医機能についてのアンケート(複数回答)で「実施が負担・困難」と回答した項目は、地域包括診療料の要件である「常勤医師3人以上」が77.9%と最も高く、同診療料/加算の要件の「在宅患者への24時間の対応」が69.4%と続いた。
一方、「実施が重要」と回答した項目では、「受診勧奨や健康状態の管理」(59.6%)、「主治医意見書の作成」(56.1%)などが上位を占め、診療所医師にとって地域包括診療料/加算の算定要件が重要との認識が低いことが明らかとなった。また、同診療料/加算は原則院内処方を要件とするが、現在院外処方の診療所の78%は今後も院外処方と回答し、院内処方が算定のネックとなっていることが窺える。
●「いい点数なら要件緩和求めていく」中川氏
調査結果を受け、中川俊男日医副会長は「算定医療機関が少ないことは当初から想定していた。しかし、かかりつけ医の機能を診療報酬で評価した意義は大きい。また院内処方への回帰も評価できる。医療現場にとっていい点数であることが分かれば、要件の緩和を求めていく」とし、調査結果をさらに分析した上で、次期改定への材料とする意向を示した。
【記者の眼】在宅の大幅引下げによる地域医療への影響は見られないという調査結果だったが、医療機関への影響は決して小さくない。点数引下げに伴う収入減により、労働時間や移動時間の増加が見られ、医療機関が経営努力で負担を吸収している状況とも受け取れる。(T)