きくち総合診療クリニックには,大変多くの方に受診・通院いただいています。開業して8年目を迎え,患者さんたち,地域の方々からいろいろなお声をいただきます。少しでもこれから開業をする先生方のお役に立てるように,患者さんがクリニックに何を期待しているのかを,私見になりますがお話ししたいと思います。
新型コロナウイルス感染症の大流行の際,当初,ほとんどのクリニックは発熱や風邪症状のある患者を診療しませんでした。診療するクリニックは徐々に増えていきましたが,いまだに診療しないクリニックもあります。日本には10万もクリニックがあるのに,ほとんどが専門分野での開業ですので,診療難民があふれてしまいました。
何かあれば患者さんは自分の家や会社近くのクリニックを受診します。クリニックは地域医療を守る場所なのに,そこが壊れています。日本医師会総合政策研究機構がまとめた「日本の医療に関する意識調査 2022年臨時中間調査」によると,患者さんがかかりつけ医に求める役割として,第1位(66.6%)が「どんな病気でもまずは診療できる」でした。患者さんの意識の中では,薬を出すだけの医師はかかりつけ医ではなく,何でも診てくれる医師を,かかりつけ医と思っているようです。
少し話がそれますが,かかりつけ医というのは医師と1人の患者さんがお互いにそう思わないと成り立たない概念だと思います。医師は責任をもって目の前の患者さんに起きたことをすべて診る,患者さんは何かあったらその先生に診てもらう,このような関係であれば,何の問題もないでしょう。
2019年の内閣府「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」では,かかりつけ医に期待する内容を尋ねています。上位を占めるのが,「①病状,治療内容など,分かりやすく説明をしてくれる」,「②専門の医療機関などを紹介してくれる」,「③話を十分に聞いてくれる」でした。逆に言うと今,このような地域医療を支える医師が少なくなっているとも言えます。
「いつでも,何でも,誰でもまず診る」というマインドを持った本当のかかりつけ医が地域医療を守ります。今後このような医師が必要になってきますし,患者さんも期待しています。
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国民の3人に1人が65歳以上になります。1人の患者さんがクリニックをいくつもかけもちしていられなくなります。総合診療かかりつけ医は,高血圧も糖尿病も,認知症も不眠症も花粉症も,いざというときの頭痛,胸痛,腹痛,腰痛も診療するものです。このような医師が全国に拡がらないと,日本の地域医療は守れません。
患者さんは,医師に期待しているのです。