薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)は,日常診療において稀ならず遭遇する薬物の副作用である。肝逸脱酵素であるAST/ALT上昇が主となる肝細胞障害型,胆道系酵素であるALP/γGT上昇が主な胆汁うっ滞型,および両者が混在した混合型に分類される。
原因としては抗菌薬,解熱鎮痛抗炎症薬,精神神経領域薬が多いが,漢方薬や健康食品・自然食品によるものも少なくなく,近年は免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)を含めた抗癌剤によるDILIが増加している。外用薬でも起こることがある。
DILIの発症機序は,用量依存性で予測可能な中毒性と,用量非依存性で予測不可能な個体の特異体質によるものとに大別される。中毒性のDILIでは,アセトアミノフェンによるものが代表的である。しかしこれは例外的で,大半のDILIは後者の機序による。後者はさらに,アレルギー性と代謝性に分類される。ICIによるDILIは特殊型とされる。
DILIに感度・特異度の高いバイオマーカーは存在しないため,診断には総合的な判断が必要である。2023年,DILI診断のためのスコアリングシステム(RECAM-J 2023)が発表された。
肝障害を起こした症例に遭遇したとき,ウイルス性肝炎,自己免疫性肝疾患,アルコール性肝障害,非アルコール性脂肪性肝疾患など,肝障害をきたしうる他の原因を慎重に除外する。
他の原因が除外されDILIの可能性が考えられる場合,原因となりうる薬物(処方薬・OTC薬,漢方薬,自然・健康食品,サプリメントなど)とその服用時期とを詳細に聴取し,肝障害発症との時間的経過を確認する。
確定診断を目的とした被疑薬の再投与は,肝障害を増悪させる可能性があり禁忌である。
DILIに特徴的な病理組織像は存在せず,他の原因を除外する目的でない限り肝生検を行う意義はない。
しばしば薬物リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)が行われるが,この検査は偽陰性だけではなく偽陽性になることもあり,結果の解釈は慎重に行う。
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