世界140カ国以上で睡眠に関するテクノロジーサービスを提供するレスメド株式会社は7月18日、パシフィコ横浜にて開催された「日本睡眠学会第48回定期学術集会」で「女性の睡眠呼吸障害(SDB)の重要性」と題した共催シンポジウムを開催した。中年男性に多いとされる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の性差医療をテーマに、女性特有の症状とその治療法について5名の医師が発表を行った。同シンポジウムのオーガナイザーを務めた社会医療法人芳和会くわみず病院院長の池上あずさ氏に、見逃されやすい女性SASの診断・治療の現状とその性差について話を聞いた。
池上 今回このシンポジウムをオーガナイズしようと考えた一番の理由は、女性の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の認知度の低さに問題があると感じたことです。
最初にSASが社会的に広がったときは「大きないびきをかく太った中年男性に多い病気」として認知されました。そのため、女性患者が睡眠に問題を感じていても「SASは男性の病気」との認識があり、専門医の受診にはつながらないことがあります。このイメージは医師側にも根強く、特に非専門医は太っていない女性からいびきや睡眠障害の訴えがあっても、SASの可能性を疑う医師はかなり少ないのが現状です。
女性はいびきに恥ずかしさを感じて隠したがる方が多いこともあり、女性のSAS患者が医療機関を受診する際もいびきや無呼吸の訴えは非常に少なく、不眠や倦怠感、気分障害といった不定愁訴を主訴に受診される患者がほとんどです。
女性のSASは50代に急増するのですが、一般的な更年期障害の症状とよく似た主訴で受診するためにSASが見逃され、誤診断・未診断となるリスクが高くなっています。
池上 男性と同様に体重増加、肥満は高リスク因子ですが、呼吸促進作用のあるプロゲステロンの減少など、女性ホルモン低下の影響も大きいと考えています。
加齢によるあごのたるみ、ゆるみといった下顎の後退も要因の一つですね。
当院が実施した調査でも、男性は30代からコンスタントに患者数が増加するのに対し、女性は50代から急に2倍以上に増加しています。
日本の家庭ではお母さん世代の女性は最後に寝て、最初に起きることが多いです。家族にいびきを指摘されることが少ないため自覚症状がなく、見逃されている患者もたくさんいるはずなので、実際にSASで辛い思いをしている更年期以降の女性はもっと多いと思っています。
池上 一番はやはりいびきです。一人暮らしだとわからないことが多いですが、大小を問わず何らかのいびきの訴えがある場合はかなりSASの可能性が高いです。
あとは入眠障害と中途覚醒ですね。寝ようとすると無呼吸状態になり覚醒反応が出るのですぐに目が覚めたり、なかなか寝付けないと訴える方が多い。患者自身は無呼吸のために目が覚めている自覚がないのですが、「苦しくて目が覚める」というのはSASに特異的な症状です。
無呼吸状態になると寝ている間にカテコラミンが分泌され結果的に高血圧になるので、血圧の確認も重要です。不眠・倦怠感などの不定愁訴に加えて高血圧であれば特にSASを疑ってほしいです。
患者からの訴えは「寝ても寝てもすっきりしない」「日中イライラする」といった更年期でよくある症状が多いので、主訴である不定愁訴以外の、プラスアルファにも注意して診察してもらいたいです。
池上 本当にそうですね。特に更年期以降の女性は不定愁訴にいびきと不眠症状があれば、SASの可能性は高くなります。患者が自宅で睡眠中の呼吸状態を計測する簡易SAS検査もありますので、クリニックでの最初のスクリーニングとして活用していただくのも良いと思います。
日本ではCPAP治療が保険適用となるかはAHI(無呼吸低呼吸指数)の数値によって決まるので、SASの疑いが強まったら早めに専門医に紹介してもらうと良いかもしれません。
池上 女性のSASは男性と比較すると低呼吸優位で、フローリミテーション(流量制限)が多い傾向にあり、重症度が必ずしもAHIに反映されない点が特徴です。そういった性差を治療でも重視する必要があります。例えばレスメド社のCPAPには女性SAS特有のフローリミテーションへ敏感に反応する「f モード」が搭載されていますので、導入しやすいです。マスクの形状も種類が豊富なので、患者に合ったマスクを使うことで、治療効果を高めることができます。
CPAP治療は患者のアドヒアランスが非常に重要です。レスメド社の治療支援アプリ「myAir」は数値化された治療の状況を日々アプリ確認できるので、忙しい世代の女性患者が効果を実感し、治療を続けるモチベーションアップに役立ちます。スコアが100点だったよ、というのがわかるとやはりとても喜んでくれるので、助かっていますね。
池上 SASに関して言えば、まだ診断されていない女性が多くいますので、その人たちを正しく診断し、治療につなげていきたいと思っています。不眠に悩んでいる女性は今もたくさんいますが、どうしたらいいか分からないという人が多いのが実情です。睡眠障害について正しい知識を届け、睡眠専門医療機関を受診してもらえるようにしたいです。
妊娠中にSASのリスクが高まる人がいることもわかっているので、妊娠女性を睡眠呼吸障害の観点で診断する必要性についても、より多くの医師に知ってもらう必要があると考えています。病院としては、教育機関と連携して子どもの睡眠問題についての啓発にも力を入れていくつもりです。
池上 SASは男性だけの病気ではありません。不定愁訴や更年期障害の問題を訴える女性患者さんを診察するときは、ぜひSASの可能性を疑って、いびきや睡眠の状況も確認してほしいと思います。