フィロウイルス科オルソエボラウイルス属に分類されるウイルスによって引き起こされる重症感染症である。エボラウイルスにはザイールエボラウイルス(Orthoebolavirus zairense),スーダンエボラウイルス(O. sudanense),タイフォレストエボラウイルス(O. taiense),ブンディブギョエボラウイルス(O. bundibugyoense),レストンエボラウイルス(O. restonense)および新規のO. bombalienseの6種類が存在する。レストンエボラウイルス(フィリピンなどアジアに存在する)以外は,サハラ砂漠以南のアフリカ熱帯亜熱帯地域においてエボラ出血熱の原因となる。オルソエボラウイルス属の宿主はオオコウモリと考えられている。日本では流行していない。
1976年にコンゴ民主共和国(DRC,旧ザイール)とスーダンで初めてエボラ出血熱流行が確認された。それ以降,DRC,スーダン,ウガンダ,ガボンなどの国々で繰り返し流行が発生している。これらの地域での流行規模は最大のものでも患者数が約400人程度であったが,2014~15年にかけて西アフリカ(ギニア,リベリア,シエラレオネ)で発生したエボラ出血熱流行では,患者数約2万8500人(疑い患者を含む),死者数は1万1000人を超えた。この流行時には,マリやナイジェリアにも輸入感染事例が感染源となって流行が広がった。
エボラ出血熱は,日本では輸入感染事例が発生することはあっても,その患者を源として流行が拡大するというリスクは低い。
流行地(サハラ砂漠以南のアフリカ)に渡航歴があり,原因が不明で感染症状を示す者,特に重症である場合に鑑別診断に挙げる。発熱,重度の頭痛,筋肉痛,腹部痛,衰弱などの非特異的症状が出現し,さらに重症例ではそれらの症状に続いて嘔吐,下痢,出血,紫斑も出現する。エボラ出血熱の輸入感染事例は,2014~15年にかけて西アフリカで発生したエボラ出血熱流行時に米国で発生した事例があり,このときには2人の看護師がエボラウイルスに感染し発症した。また,西アフリカでウイルスに感染しエボラ出血熱を発症した患者をスペインの病院で治療していた医療従事者が二次感染を起こした事例も報告されている。
潜伏期間は8〜10日(範囲:2〜21日)である。病名に「出血」という言葉が含まれているが,実際に目に見える「出血症状」を呈する患者は10%前後とされ,残りの患者は出血症状を呈さない。出血症状がないからといってエボラ出血熱を否定できない。また,アフリカでは類似する感染症として,マラリア,デング熱,リフトバレー熱,ラッサ熱などの感染症も流行しており,エボラ出血熱に限らず,可能性のある他の感染症の病原体検査を実施することが望ましい。
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