知能が明らかに低いこと,様々な社会生活場面における適応水準が低いこと,それらが成人期に達するよりも前に発現し,生涯にわたって持続する。
基礎疾患がないことのほうが多いが,先天性代謝異常(フェニルケトン尿症など),出産前後の感染,中毒,脳外傷,染色体異常(21トリソミー,脆弱X症候群など)等の先天性の異常などが原因となることがある。中等度~最重度の場合,乳児期に運動発達の遅れで気づかれることがある。軽度の場合は,言葉の発達などが気づきの契機になることが多い。運動発達や言語発達などを指標として,乳幼児健康診査による早期発見が可能である。
診断は,心理検査の所見と生活の様々な場面における適応行動機能に関する情報を総合して行う。標準化された知能検査は診断を進める上で重要な要素のひとつである。最新の国際診断基準であるICD-11では,偏差指数の算出が可能である標準化検査(ノルム化検査)による知的および適応行動機能の評価が求められるようになった。知能検査では,領域ごとの個人内乖離を評価できるウェクスラー式(2歳6カ月~7歳3カ月はWPPSI-Ⅲ,5歳~15歳はWISC-Ⅴ,16歳以上はWAIS-Ⅳ)が有用である。適応行動機能については,「日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度」などが用いられる。知能指数(IQ)でおおむね70未満の場合に知的発達症と診断することが多いが,IQが70以上あっても適応行動機能の遅れが顕著である場合,総合的に知的発達症と診断してよい。
基礎疾患があればその治療を行う。成人後も日常生活の適応に問題が残るため,福祉や教育などと多職種連携のチーム体制を組み,地域で支援していく必要がある。医師の役割は,全体を俯瞰的にアセスメントし,長期ゴール,短期ゴールなどの指針を示すことが主となる。
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