脊髄空洞症は脊髄内に髄液で満たされた空洞を生じ,程度によっては神経症状を生じる疾患である。Chiari奇形に合併するものが多いが,癒着性くも膜炎,脊髄係留,脊髄外傷,脊髄腫瘍なども原因となる。空洞を生じるメカニズムはいまだ不明であるが,髄液の循環障害が原因とされ,髄液が第4脳室から中心管へ流入するという説(hydrodynamic theory)や髄液が直接髄質を介して流入するという説(transmedullary theory)がある。
脊髄空洞症の特徴は,解離性感覚障害(温痛覚が鈍麻するが深部知覚は保たれる)と宙吊り型温痛覚障害(主に片側上肢のみの知覚障害)を呈することである。
小児期の脊髄空洞症は神経症状に乏しく,脊柱側弯症で整形外科を受診した際に診断されることが多い。脊髄空洞症による神経症状を何ら自覚していないことがほとんどであり,唯一の手がかりは腹壁反射の左右差(片側の消失が多い)であることが多い。また脊髄空洞症に伴う側弯症は冠状面のオフバランスや胸椎後弯が増強したものが多く,このようなタイプの側弯症患者を診る際には腹壁反射のチェックを怠らないことが重要である。
成人以降の脊髄空洞症では片側の痛みやしびれを自覚して受診する場合が多いが,進行例では筋力低下や筋萎縮を呈し,空洞が延髄に及ぶものでは顔面の知覚障害,嚥下障害や構音障害などの球麻痺を呈するものもある。
どの世代であれ上記のような所見や症状があれば脊髄空洞症を疑い,MRIで確定診断に至ることができる。空洞の広がりを確認するためには全脊髄を撮像する必要があり,また脊髄腫瘍の鑑別を要する場合は造影MRIが有用である。
10歳未満ではChiari奇形・脊髄空洞症ともに自然軽快し側弯も改善することがめずらしくない1)。よって10歳未満では経過観察を基本としている。ただし10歳未満であっても側弯が高度な例では後頭下減圧術を行い,必要があれば側弯症に対しては装具治療や手術治療を行う。
Chiari奇形に伴う脊髄空洞症の場合,空洞が小さく神経症状も軽微であれば定期的にMRIを確認しながら経過観察していく。神経症状の自覚・他覚所見があり,空洞の範囲が広く大きなものに対しては手術を選択する。
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