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【識者の眼】「ED治療薬と緊急避妊薬のOTC化を巡る背景と課題」稲葉可奈子

稲葉可奈子 (産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)

登録日: 2025-01-09

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緊急避妊薬(アフターピル)がなかなかOTC(薬局での販売)化されない中で、ED治療薬OTC化の検討が始まり、女性は軽んじられている! との反発が見受けられましたが、はたして実際にそうなのでしょうか。

ED治療薬のOTC化が検討されている背景には、違法な偽造薬の流通が挙げられます。ED治療薬は恥ずかしさから医療機関を受診せず、個人が海外からインターネット経由で購入するケースが多くみられます。この際、偽造薬が混入していることがあり、健康被害や市場の混乱が生じています。正規品をOTC化することで、こうした違法薬の流通を抑え、安全性の高い薬の入手を容易にする狙いがあります。

また、OTC化により製薬企業は単価の上昇と市場の拡大が見込まれるため、経済的な利点も後押ししています。こうした行政と企業の事情が一致し、OTC化の流れが進んでいると考えられます。

一方、緊急避妊薬は望まない妊娠を防ぐ最後の手段として重要ですが、OTC化を進める動きは滞っています。その背景には、ED治療薬とは異なる事情があります。まず、避妊に関わる医療は日本では保険適用外の「自費」となっており、緊急避妊薬も自費で処方されています。OTC化することで単価が下がると予測される上に、日常的に使用されるものではなく、緊急時のみ必要な薬であります。そのため、OTC化により市場規模が拡大するわけでもなく、製薬企業には積極的に推進するインセンティブがありません。

さらに、緊急避妊薬を手に入れやすくなることを男性が悪用する懸念もあります。緊急避妊薬があればコンドームを使用しなくてよい、という誤った認識が広がれば、女性がさらなる負担を抱える可能性があります。

もちろん、緊急避妊薬へのアクセスがよくなることは望まない妊娠を防ぐために重要ではあるのですが、まずは避妊法が自費である点を見直す必要があるかもしれません。

このように、ED治療薬と緊急避妊薬のOTC化は背景がまったく異なるため、両者を単純に比較し、「女性軽視」とするのは適切ではありません。OTC化の議論は、それぞれの薬の事情や背景を理解した上で、冷静な判断が求められます。

稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[健康被害][市場の混乱][安全性の高い薬]

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