質問
日々の診察の中で,患者さんから威圧的な言動を受けることがあり,看護師や受付のスタッフにも患者さんやその家族からの理不尽な迷惑行為で悩んでいる人がいます。患者さんとの問題のみならず,組織内でのハラスメント対策もあわせてこれから整備していきたいと考えていますが,どのような対応をすべきでしょうか。
回答
医療機関で働く医師や看護師は,常に患者さんの生命や健康に責任を持ち,緊張感の高い現場で職務を遂行しています。そのため,ミスが重大な結果をまねく可能性があり,医療従事者には大きなプレッシャーがかかります。また,医療現場では,個々の専門知識や技術に依存する場面が多いため,組織的な統制が難しく,ハラスメントが発生しやすい環境が生まれがちです。以下では,医療機関におけるハラスメントの対応策について詳しく見ていきます。
医療機関で主に注意すべきハラスメントは3つ挙げられます。スタッフ間におけるパワハラ,スタッフ間および対患者におけるセクハラと,患者から受けるハラスメント,いわゆるペイシェントハラスメントです。
パワハラ(パワーハラスメント)は,上司や権力者が優越的な立場を利用して,不適切な言動を行うことです。典型的な例として,上司の医師による部下の医師や看護師に対する過度の叱責や,過剰な業務付与などがあります。パワハラには,身体的・精神的な攻撃,人間関係からの隔離,過大または過小な業務要求など,様々な形態があります。
2022年4月の労働施策総合推進法の改正により,すべての企業はパワハラ防止措置を講じることが義務づけられました。具体的には,相談窓口の設置や,就業規則においてパワハラ禁止の方針を明確にすることが含まれます。医療機関も例外ではなく,これらの対策を怠ると,医療機関名が公表されるリスクがあります。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)は,性的な発言や行動を指します。たとえば,性的な事実関係を質問したり,性的な噂を流したりする行為が該当します。また,性別による役割分担の固定観念に基づく発言(「男なのに情けない」「女性はお茶くみをすべきだ」など)もセクハラに当たります。
セクハラは,その言動を受けた相手がどう感じたかが基準となります。その発言や行動をした人が問題ないと思っていても,相手が不快に感じればセクハラとして認定される可能性があります。
近年,顧客等からの著しい迷惑行為が問題となっており,カスタマーハラスメントと呼ばれています。令和5年度の厚生労働省の調査によると,2000あまりの企業のうち,過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為,つまりカスタマーハラスメントがあったと回答した企業の割合は86.8%で,多くの労働者がカスタマーハラスメントの被害に遭っていることがわかります(図1)1)。医療機関では特に「ペイシェントハラスメント」と呼ばれており,患者さんやその家族からの不当な要求やハラスメント行為が増加しています。このような問題に対処するために,医療従事者やスタッフが安全かつ効率的に働ける環境を守ることが必要不可欠です。
過去3年間にハラスメントに関する相談があった企業のうち,顧客等からの著しい迷惑行為があったという回答の割合は9割弱にのぼります。医療機関におけるペイシェントハラスメントに関しても,医療従事者やスタッフがハラスメントへの不安やプレッシャーを感じずに働ける職場環境を整え,守っていくことが重要となります。