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コンゴ民主共和国における原因不明の発熱疾患のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(31)]

No.5257 (2025年01月25日発行) P.69

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2025-01-22

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●コンゴ民主共和国で原因不明の発熱疾患のアウトブレイクが発生!1)

2024年11月29日,コンゴ民主共和国の保健省はWHOに対し,Panzi地域における原因不明の発熱疾患の発生と死亡例に関して報告しました。その後,2024年10月24日から12月5日までの間に,Kwango州のPanzi地域で,原因不明の発熱,頭痛,咳,鼻水,体の痛みなどの症状を呈する患者406人と死亡者31人(死亡率:7.6%)が確認されました。

12月5日の保健省の報道発表によると,医療施設以外での死亡例も数例報告されています。報告された症例全体の64.3%を0~14歳の小児が占め,0~59カ月が53%,5~9歳が7.4%,10~14歳が3.9%で,女性は全症例の59.9%を占めました。死亡者のうち71%は15歳未満であり,5歳未満の子どもが全体の54.8%を占めていました。また,15歳以上の患者は145人で,そのうち9人が死亡しました(死亡率:6.2%)。重症例はすべて栄養失調であったとも報告されました。

このような小児を中心とした原因不明の発熱疾患のアウトブレイク発生の報告は,関係者の間に大きな緊張をもたらしました。

なおこの地域では,ここ数カ月で食糧不安が悪化し,ワクチン接種率も低く,診断や質の高い診療へのアクセスが非常に限られているようです。物資や交通手段に加え保健・医療スタッフも不足しており,マラリア対策は困難をきわめているとのことです。

●2024年12月22日時点でわかっていること2)

この原因不明の発熱疾患のアウトブレイクに対して,11月30日には全世界の専門家による緊急対応チームが派遣され,検査診断のための検体収集,検出された症例のより詳細な臨床的特徴の解明,感染動態の調査,医療施設内や地域レベルでの追加症例の積極的な探索などの支援が実施されています。さらに専門家チームは,患者の治療,リスクコミュニケーションなども支援しています。

2024年12月10日時点で,当初採取した12個の臨床検体のうち10検体がマラリア陽性と判定されましたが,マラリア以外の複数の病気が関与している可能性もあります。アウトブレイクの正確な原因を明らかにするため,専門家チームはさらなる臨床検体を採取し検査を行う予定です。

2024年12月31日は,当時まだ知られていなかった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による肺炎が初めてWHOに報告されてから5周年にあたります。過去5年間で,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡者数は700万人以上とWHOに報告されていますが,本当の死亡者数は少なくとも3倍以上と推定されています。

我々人類は,今後も未知の新興感染症や再興感染症に直面する可能性が高く,これらの脅威に対応するためには,国際的な協力と情報共有が不可欠です。科学的な研究と迅速な対策を講じ,感染拡大を防ぎ,社会の安全を守るために,世界が一丸となって取り組んでいく必要があります。ともに協力し合い対応していくことが重要です。

【文献】

1)WHO:Undiagnosed disease - Democratic Republic of the Congo.(2024年12月22日アクセス)

2)WHO:WHO Director-General's opening remarks at the media briefing –10 December 2024.(2024年12月22日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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