一般的に,病院で行われている医学的リハビリテーション(以下,リハビリ)は,機能回復訓練による社会復帰が目的とされている。これに対して原疾患の治癒を期待できない場合,症状の軽減を中心とした緩和ケアが行われる。この場合のリハビリの目的は,機能回復や社会復帰ではなく,療養生活を少しでも心地よくすること,およびその日が訪れるまでの希望の提供である。
障害または病勢の進行により機能低下は不可避となる。この際,日常生活動作(ADL)は低下せざるをえない。しかし,生活の質(QOL)は必ずしも低下するとは限らない。QOL向上のポイントは,その時点での患者の希望をできる限りリハビリで実現することにある。
終末期リハビリの初期評価の肝は,患者の希望を把握する点にある。これには細心のコミュニケーション技術が必須である。なぜなら多くの場合,患者は「いまさら希望を述べてもしかたない」という状況にあり,通常のコミュニケーションすら拒否的となりがちだからである。「面接」で正面から尋ねるのみならず,患者の「つぶやき」を拾うことが契機になることさえある。
この際,できる限り早期から(まだADLが可能な身体機能が残されている段階から),医療チームにリハビリスタッフが参加し「顔なじみ」になっているとコミュニケーションを開始しやすい。患者の機能水準が低下すれば低下するほど,新しい事態,新規職員の登場に対応する余力がなくなるからである。「おなじみ」の関係はこの事態の打開を容易にする。
患者の居住環境は千差万別,患者の機能水準も多種多様である。これらの様々な状況をふまえ,リハビリの知識および技術で患者の希望を実現する方法を検討し,実行する。患者の希望は非常に個性的でパターン化できないため,リハビリには柔軟な対応が求められる。また,時間経過,病勢の進行,患者との関係性の深化等により希望は変化し,その意味でも一様ではない。
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