在宅療養者,特に高齢者の場合,自身による日常的口腔ケアが不十分であることが多いため,場合により歯科訪問診療や,歯科衛生士による専門的口腔ケアを受ける必要がある。新興感染症蔓延時には感染を恐れるあまり歯科訪問診療を敬遠した場合,歯科医師・歯科衛生士による介入が減ることで,う蝕・歯周病の悪化,誤嚥性肺炎,食事摂取量の減少につながる可能性がある。特に重症者の場合,二次的な細菌感染による肺炎発症リスクがあるため,口腔内の衛生状態を保つことは非常に重要である。
感染経路が飛沫感染や空気感染の場合,歯科診療では歯・義歯の切削,超音波スケーラーによる歯石除去などエアロゾルが発生することが多く,感染リスクが非常に高い。特に超音波スケーラーは,一般歯科診療時の3倍のエアロゾルが発生すると報告されており,注意が必要である。
また,口腔衛生用具による口腔ケアの際の唾液飛沫や食事介助時のむせ込みでもエアロゾルが発生しやすい。そのため,在宅療養者への問診や周囲の状況などから新興感染症の感染リスクを予測し,そのリスクへの対応を行うべきである。
リスク評価により新興感染症の可能性が否定的,もしくはきわめて低い場合は,標準予防策(分泌物が飛散する可能性がある場合に必要とされる,マスク,ゴーグル,ビニールエプロンを使用)に則った感染対策を行う。療養者が含嗽が可能な状態であれば,歯科診療,口腔ケア開始前に1%過酸化水素水もしくは0.2%ポビドンヨードによる洗口を実施する。
切削作業や超音波スケーラー等を使用する場合は窓を開けるなど換気を行い,バキューム操作を確実に行う。バキュームの排気は室内に還流しないよう室外へ誘導する。ただし,標準予防策を実施するにあたって,必要となる医療資源が市中において不足している状況下では,医療資源を節約しつつ救急部門への負担を減らすため,一般開業歯科医においては,緊急的な歯科処置のみ行うことが推奨される。食事指導ではビデオ通話によるオンライン診療を検討する。
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