皆さんは,「延命治療」と聞くと,患者さんがどのような状態にあると考えるでしょうか。延命治療とは,病気の回復ではなく,延命を目的とした医療行為のことです。人工呼吸器をつけている状態,胃瘻などで人工栄養を受けている状態などが考えられ,人によっては人工透析も延命治療だと考えるかもしれません。
終末期に患者さん自らが「延命治療はしない」と意思表示をされたなら,医療従事者はその意思を尊重しようと尽力できます。しかし,今現在,延命治療を受けていて,自分で意思を表明できない患者さんのご家族から「延命治療をやめてほしい」と申し出があったら,主治医,そして多職種チームはどうすべきでしょうか?
「A病院に入院している母親をたんぽぽクリニックに転院させて,今,行われている延命治療をやめ,自宅で自然に看取りたい」という相談の電話が,患者の長女さんから当院にかかってきました。長女さんによると,母親のスミコさん(71歳,仮名)は2カ月前に自宅で脳出血を発症し,救急搬送されたそうです。一時は呼吸状態が悪化したために気管挿管され,人工呼吸器が必要でしたが,現在は離脱していました。気管カニューレを装着し,2時間ごとに吸引が必要で,栄養は経鼻胃管チューブで注入し,寝たきりで意思表示はできない状態でした。
ご家族から「延命治療をやめたい」と申し出があったとき,私が必ず確認することは次の2つです。
①患者本人も本当に延命治療の中止を希望しているのか?
②介護放棄や経済的理由など,家族の都合で希望している可能性はないか?
これらについては簡単には判明しません。少し時間をかけて,患者さんの人となりや今までの人生,ご家族の思いや状況を理解していくことが必要です。
そこで私は,長女さんと実際にお会いして話を伺うことにしました。スミコさんは,地元で美味しいと評判の食堂を切り盛りしていました。長女さんがおっしゃるには「父親よりも男らしい」性格で,意思表示もはっきりとした女性なのだそうです。スミコさんの実父が寝たきりになり,胃瘻から栄養摂取していた姿を目の当たりにして,「かわいそう。自分はそこまでして生きていたくはない」とおっしゃっていたとのことでした。
そんなスミコさんがある日突然,脳出血を発症して救急搬送され,延命治療を望んでいなかったにもかかわらず,人工呼吸器が装着されて一命を取り留めました。しかし,寝たきりとなり,栄養は経鼻胃管チューブから,開眼して追視はあっても呼びかけには反応しないという状態になったのです。病院主治医からはこれ以上の回復は見込めないと言われたので,セカンドオピニオンを求めて他院も受診したそうですが,やはり劇的な改善は見込めないと診断されたとのことでした。
病院主治医からは,今後の方針として次の3つを提案されたそうです。