マールブルグ病は,臨床的にはエボラ出血熱と類似している出血熱疾患のひとつです。感染者の血液,分泌物,臓器,その他の体液,およびこれらで汚染された表面や材料(寝具,衣服など)との直接接触(皮膚や粘膜の破綻)を介して,人々の間で伝播します。医療従事者が患者の治療中に感染したとの報告もあります。また,故人の遺体に直接触れる埋葬儀式でも感染の可能性があります。
潜伏期間は2~21日で,急性発症で発熱,激しい頭痛を認め,重度の水様性下痢,腹痛,痙攣,嘔気・嘔吐なども認めます。全例が出血徴候を示すわけではないですが,重篤な出血徴候は症状発現から5~7日の間に現れることがあり,致死的症例では通常,何らかの出血がみられ,多くの場合,身体の複数の部位から出血します。 致死例では,発症から8~9日後に死亡します。現在,承認された治療法やワクチンはありません。
アウトブレイクはこれまでに世界(アフリカ地域中心)で18件報告されており,直近の発生は,2024年9月から12月にかけてルワンダで報告されました。
2025年1月13日,WHOはタンザニア連合共和国のカゲラ州でマールブルグ病の疑いがある感染症が発生したことを,加盟国に通知しました。具体的には6人が罹患し,頭痛,高熱,背部痛,下痢,吐血,倦怠感などを呈し,うち5人が死亡したと報告されました。その後の調査にて,確定2例と推定8例の合計10例が報告されました。全例が死亡し,そのうち8人はアウトブレイクが確認される前に死亡していました。アウトブレイク宣言後に確認された2例は,指定された治療センターで隔離中に死亡しました。
推定される最初の症例は成人女性で,2024年12月9日に症状が現れ,同年12月16日に死亡しました。全10例がカゲラ州ビハラムロ地区から報告され,症例の年齢中央値は30歳(範囲:1〜75歳),症例の大部分(70%,7例)は女性でした。
2025年3月13日,タンザニア連合共和国保健省は,1月28日に死亡した最後の確定例に対して,安全で尊厳のある埋葬が行われてから,潜伏期間の2倍(合計42日)の日数が経過した後にも新たな症例が報告されていないことから,マールブルグ病の流行終息を宣言しました。
2025年3月12日時点で,281人の接触者がリストアップされており,そのうち9人は後に推定症例および確定症例に分類されましたが,272人は21日間の追跡調査を完了しました。
マールブルグ病は,有効な治療法が確立されていない死亡率の高いウイルス性出血熱です。標準予防策に加え,接触・飛沫感染予防策を徹底し,厳重な感染管理をすることが大切です。特に患者に接する医療従事者は,適切な個人防護具の使用が推奨されます。
【文献】
1)WHO:Outbreak of suspected Marburg Virus Disease - United Republic of Tanzania. 2025/1/14. (2025年3月16日アクセス)
2)WHO:Marburg Virus Disease–United Republic of Tanzania. 2025/2/14. (2025年3月16日アクセス)
3)WHO:Marburg virus disease– United Republic of Tanzania. 2025/3/13. (2025年3月16日アクセス)
石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)
2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。