▼「消費税引上げを延期する以上、社会保障を充実させるスケジュールも見直しが必要だ」。衆院を解散した安倍晋三首相は21日、増税延期に伴う社会保障・税一体改革の見直しに言及した。社会保障充実策を「すべて行うのは難しい」という。選挙公約「自民党重点施策2014」でも社会保障については「着実に子ども・子育て支援、医療、介護等の充実を図る」と抽象的な文言が並ぶ。
▼民主、自民、公明の3党合意に基づき、消費税増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法が成立したのは2012年8月のこと。それまでは、人口の高齢化で増大する社会保障費を税収で賄えず、将来世代に負担を先送りして制度を維持していたが、一体改革では経済状況の好転を条件に、消費税を14年4月1日に8%、15年10月1日から10%に引き上げ、増収分を全額社会保障財源とし、社会保障制度の充実と安定化を図ることとした。このうち医療・介護分野では、団塊世代が75歳を迎える2025年の超高齢社会に向けて提供体制の改革を目指す。たとえば、介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らせるように、医療・介護・予防・生活支援・住まいを一体的に提供する「地域包括ケア」の構築もその1つだ。
▼一体改革に基づいた充実策は、今年度から順次始まっており、17年度までのスケジュールも決まっている。政府は来年度の充実策に1兆8000億円を充てる予定だったが、増税延期により税収は1兆3500億円程度に縮小する。医療・介護分野で来年度新たに実施予定の事業は、「介護報酬改定」「地域医療介護総合確保基金の介護分」「低所得者の介護保険料軽減」「低所得者の国保保険料軽減」など。税収減により、これらにどの程度の予算を配分するのか、または配分しないのか、詳細は明らかにされていない。
▼安倍首相は会見で、この解散を“アベノミクス解散”と銘打ち、選挙戦を通じ、経済政策を国民に問う考えを示している。一方で、「民主主義の原点は税制」とし、「増税先送りという重大な変更をした以上、選挙をしなければならない」と述べている。解散の“大義”が増税延期、つまり社会保障・税一体改革の変更にあるならば、一体改革を今後どのように実行するのか、アベノミクスとセットで国民に明示すべきではないか。超高齢社会の到来は目前に迫っている。医療・介護提供体制の改革は国民にとって、「アベノミクスの成功を確かなものにする」との首相の甘言と引き替えに、棚上げされる課題ではない。