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乳癌の肝転移における肝切除の考え方

No.4743 (2015年03月21日発行) P.59

小杉奈津子 (昭和大学医学部乳腺外科)

明石定子 (昭和大学江東豊洲病院乳腺外科准教授)

登録日: 2015-03-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

転移性肝腫瘍は切除適応となる原発疾患が限られており,大腸癌か神経内分泌腫瘍からのものが大部分です。乳癌からの肝転移に関しては,欧米の文献などでは切除症例が多く報告されており,成績も良好ですが,わが国においてはあまりまとまった報告がなく,乳腺外科から肝胆膵外科への紹介も少数例にとどまっているようです。これはわが国と欧米との切除適応の考え方の相違によるものなのでしょうか,それとも,わが国と欧米とで乳癌のbehaviorが異なるためでしょうか。昭和大学・明石定子先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐野圭二:帝京大学医学部外科教授

【A】

乳癌の肝転移は,骨,肺といった他の臓器転移に比較して予後不良のため,肝切除は症例を限定して実施されてきました。良好な予後因子としては,DFI(disease free interval)1年以上,他臓器転移なし,転移個数1個,切除断端陰性,原発巣のER(estrogen receptor)陽性,手術前の化学療法奏効,若年,PS(physical status)良好,正常肝残存,全体の腫瘍量が少ない,などが挙げられ,これらの条件を満たした特定の患者に対して,肝切除は生存期間延長に寄与するかもしれないと報告されています。
また,乳癌肝転移に対して肝切除を受けた553名(19研究)に対する2011年のシステマティックレビュー(文献1)では,生存期間中央値が40カ月(23~77カ月),5年生存率は40%(21~80%)でした。これは一見,良好な結果に見えます。
一方で,薬物療法の進歩によって,肝転移に対して薬物治療単独でも長期生存を得られる症例の報告も出てきています。たとえば,化学療法に追加して,HER2陽性乳癌に対するトラスツズマブ,あるいはホルモン受容体陽性乳癌に対するホルモン療法で,長期生存を得られる症例も散見されます。
実際には,乳癌肝転移の多くは多発転移および多臓器への転移を伴い,通常,遅い時期に発症してきます。肝転移単独は乳癌肝転移の5~12%にすぎません。手術可能と予想される症例であっても,50%以上でびまん性に肝転移,腹膜転移があり,ほとんどの症例は非適応です。
上記を受け,日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」では,「生存の延長に寄与するエビデンスはない」とし,「限られたケースを除き,肺・骨・肝転移に対する外科的切除は勧められない」(C2)と記載していることもあり,日本では切除に対して消極的となっています。
これまでの肝切除の報告は手術症例・非手術症例に選択バイアスがあり,もともと予後良好な患者さんに手術がなされているため,切除の有効性は証明できていません。肝切除後にadjuvantとして投与する薬物療法も進化してきた今,長期無再発生存,孤立転移など,限定した患者さんに対し,前向きに無作為化比較試験で肝切除の有効性をみるのは意義深いことと思われます。

【文献】


1) Chua TC, et al:Eur J Cancer. 2011;47(15): 2282-90.

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