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大腸癌肝転移の手術適応

No.4751 (2015年05月16日発行) P.55

佐野圭二 (帝京大学医学部外科学講座教授)

登録日: 2015-05-16

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

大腸癌の肝転移は胃癌や膵癌と異なり,「切除可能なら切除することが予後延長につながる」というのがコンセンサスだと思います。最近では,化学療法と手術技術の進歩によって,さらに適応が拡大してきているように思われます。肝胆膵外科専門医の立場から,現在の手術適応と術前化学療法を行う上での注意点などについて,帝京大学・佐野圭二先生のご教示をお願いします。
【質問者】
古畑智久:札幌医科大学保健医療学部看護学科 基礎・臨床医学講座教授

【A】

大腸癌の肝転移は神経内分泌腫瘍の肝転移と並んで転移性肝腫瘍の中でも切除成績が良好であり,また肝切除が唯一治癒を望める治療であるため,「切除可能な」肝転移に対しては欧米のガイドライン,日本のガイドラインともに切除療法が第一選択となっています。
転移が肝内に限局する場合,いくつまでが「切除適応」と考えるべきでしょうか。個数が増えれば切除後の予後は悪化しますが,それでも切除療法(+化学療法)にまさる治療法は現段階では報告されておらず,かつ治癒が唯一望める治療法であるため,「安全に」切除できる条件であれば切除適応と考えます。
ただし,これらの「切除」は当然,肉眼的根治切除であり,かつ切除後,病理学的にも断端に腫瘍細胞の遺残がないことが条件となります。逆に腫瘍が露出しなければマージンは必要ないとも考えられており,すなわち,転移巣がいくつあってもそれら「すべてが露出せず」「十分な肝実質を残して」切除できれば,「切除適応」と考えています。
術式の選択としては,グリソン鞘浸潤がない限り,可及的部分切除で肝実質を温存する方針とします。その理由として,系統的切除が根治性の向上につながらないという理由に加えて,肝転移再発したときの再切除術式の選択肢を狭めないようにという配慮が挙げられます。主肝静脈に浸潤があっても,肝部分切除とともに浸潤肝静脈壁を合併切除して再建を行い,その静脈灌流領域の肝機能を保ちます。
腫瘍が左右両グリソン鞘に浸潤する,あるいは主肝静脈3本すべてに浸潤する場合は,その時点で「切除不能」と診断し,化学療法を行います。分子標的治療薬の登場により奏効率や腫瘍縮小効果が向上しているため,「切除可能」となることも少なくありません。その際注意すべき点は,切除可能となった時点でできるだけ早く切除を行うことと,切除を考えた時点で肝機能をICG15分値で評価し,幕内基準に当てはめて切除範囲を決定することです。
休薬後4週間待つとほとんどの症例で肝機能が改善しますが,化学療法が長いほど肝障害は強くなり回復しづらくなるため,4サイクル(2カ月)ごとに画像上切除適応を評価し続けることが重要になります。そのためには,化学療法を行う医師と肝胆膵外科医師の綿密な連携が不可欠となります。
切除可能症例に対する術前補助化学療法の是非に関しては,現在いくつかの臨床試験が行われているところで,結論は出ていません。切除可能な肝外転移がある肝転移,たとえば肺転移,肝門部リンパ節転移,副腎転移,脾転移,腹膜播種などに対する肉眼的根治切除の是非もいまだ不明です。当然,再発率は高くなりますので,「安全に」切除できる条件であることが大前提で,かつ患者さんとよく相談して切除を試みることもあります。ぜひ一度,専門医にご相談下さい。

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