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甲状腺分化癌における術後 131 I アブレーションの適応

No.4751 (2015年05月16日発行) P.56

岡本高宏 (東京女子医科大学内分泌外科教授)

登録日: 2015-05-16

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

最近,甲状腺分化癌術後に外来で放射性ヨウ素(131I)を用いたアブレーションを行うことが可能となり,多くの施設でこの療法を取り入れています。予後改善という観点からは甲状腺全摘を受けた患者すべてにこの療法を追加したいところです。しかし,文献的には,低リスクの患者では明らかな予後の改善は認められなかったと報告されており,さらに,この療法を受けた患者に二次がんを引き起こす可能性を指摘した報告もみられます。
このようなことから,適応をある程度決めるべきと考えますが,現在のところ明らかなコンセンサスはないようです。東京女子医科大学・岡本高宏先生は131Iアブレーションの適応をどのようにお考えでしょうか。TNM分類,年齢など具体的にご教示下さい。
【質問者】
吉田 明:神奈川県立がんセンター乳腺内分泌外科部長

【A】

2010年から131Iを用いた外来アブレーション治療(30mCi)が開始されました。100mCiによる入院治療施設が減少する中,外来治療の道が開かれたのは日本核医学会の甲状腺RI治療委員会を中心とした関係者の努力の賜です。
ただしご指摘のように,甲状腺分化癌術後補助療法としての有効性は証明されていません。ランダム化比較試験は行われておらず,Sawkaらによる系統的レビューの対象はすべてコホート研究でした。乳頭癌あるいは濾胞癌の低危険度(根治手術ができた)患者において甲状腺癌死抑制の効果はなく,わずかに遠隔再発抑制でNNT(number needed to treat)50と報告されています。一方で,アブレーションのみならず,治療量を含めた131I内用療法は他の悪性腫瘍発症と関連し(標準化罹患比1.21),13人(10万人年対)の頻度で発症するとの報告があります。
わが国では甲状腺分化癌の多くが予後良好であるとの認識から,また上記のような医療環境の背景もあって,欧米とは異なる医療が行われてきました。2010年に公開された「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」では,多くの施設から参加した委員の貢献により,日本の管理方針を示すことができました。
甲状腺癌の中で最も頻度が高い乳頭癌に対しては,再発の危険が低い(T1N0M0)症例では甲状腺の切除範囲を患側腺葉にとどめることを勧める一方,再発の危険が高いと予想される場合には,甲状腺全摘と必要に応じたリンパ節郭清およびアブレーションを推奨しています。そして推測される再発の危険度がどちらにも当てはまらない“グレーゾーン”の症例では他の予後因子や手術合併症の懸念を考慮して決定する,としています。
ご質問は,この“グレーゾーン”でどのような症例を対象にアブレーションを考慮するか,とのお問い合わせと理解します。当科での経験を振り返って検討したところ,手術前の評価で「腫瘍径4cm以上」あるいは「内深頸リンパ節転移あり(N1b)」が予後に関連すると推測できました。院内の核医学専門医とも協議し,これらの条件に合う症例では,(1)再発の可能性が10~20%と推定されること,(2)アブレーションはその可能性を抑えるかもしれないこと(ただし明確なデータはないこと),(3)アブレーションは稀に他の悪性腫瘍発症をまねくかもしれないこと,を説明した上で方針を決めることにしています。
「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」の次期改訂では,こうしたより具体的な管理方針に踏み込むことを期待しています。

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