【Q】
ベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZD)系薬は多数が上市されていますが,どれも化学構造が非常に似通っており,その効果の違いは薬物動態学的な違い〔最高血中濃度到達時間(maximum drug concentration time:Tmax),半減期(biological half-life:T1/2),活性代謝物の有無など〕だけであると極論している教科書もあります。とはいえ,実臨床の場面では,薬によって効果に違いがあると患者さん自身が主張することが少なくありません。
同じBZD系薬でも,症状によって効く薬とそうでない薬があるのでしょうか。東海大学・山本賢司先生のご教示をお願いします。
【質問者】
鈴木映二:国際医療福祉大学熱海病院心療・精神科教授
【A】
BZD系薬は,神経症,うつ病,心身症などの不安,緊張,抑うつ,睡眠障害や,アルコール離脱せん妄の治療や予防,痙攣の抑制,不眠症,麻酔前投薬などに幅広く用いられてきました。
治療ガイドラインや教科書などでは,BZD系薬の薬理作用に基づく使いわけが記載されており,薬理学的に考えると理にかなっているものもあります。
たとえば,「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」ではBZD系薬を消失半減期(T1/2)の違いで超短時間作用型,短時間作用型,中間作用型,長時間作用型の4種類にわけ,不眠のタイプによる使いわけをすることが推奨され,多くの臨床医は薬物選択の際の基準にしていると思います。また,不眠症や麻酔前投薬などではBZD系薬同士の比較試験に関する報告が数多く存在し,BZD系薬の間で有効性,安全性などを比較し,有意差を認めると報告しているものもあります。
一方で,パニック障害については,アルプラゾラムと他のBZD系薬(ジアゼパム,クロナゼパム,ロラゼパムなど)との有効性に関するメタ解析が行われ,ほぼ同等であることが報告されています(文献1)。
これらの結果から考えると,BZD系薬の種類によって効果に違いが生じることはありえますが,何を評価するかによっては,薬理学的に多少異なるプロフィールのBZD系薬でも有効性に差が出ないこともあると言えるでしょう。
今までにも,BZD系薬の間での各適応症に対する効果の違いについて検証している研究は少なからず存在していますが,精神科領域では小規模なものも多く,確実なエビデンスとしてコンセンサスが得られるまでに至っていないのではないかと思います。さらに,昨今のBZD系薬の使用の動向(依存性など副作用の問題から,BZD系薬使用は最小限にとどめるという方向性)から考えると,同様の研究が改めて積極的に行われていくとは考えにくく,効果の違いの詳細な部分に関する科学的なエビデンスを追究していくのには限界があると考えられます。
したがって,BZD系薬の中での薬剤選択は,薬理学的な特徴に患者さんの症状や診断,年齢,身体状況などを加味して行う現行の方法が続くのではないかと思います。また,明らかに理論的なものとは異なる効果を患者さんが訴える場合には,医師─患者関係の影響や,患者さんの被暗示性など,非薬理学的な要因についても考慮に入れるべきでしょう(文献2)。
【文献】
1) Moyan S, et al:J Clin Psychopharmacol. 2011;
31(5):647-52.
2) Rickels K, ed:Non-specific Factors in Drug Therapy. Charles C. Thomas, 1968.