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アレルギー疾患発症予防を目的 とした離乳食制限のリスク

No.4771 (2015年10月03日発行) P.60

成田雅美 (国立成育医療研究センターアレルギー科)

登録日: 2015-10-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

最近,育児する人の間では,アレルギーを予防するために,離乳食の開始時期を遅らせて乳児期後半まで母乳だけで育てたり,離乳食で卵や動物性蛋白を制限したりすることが広まっているようです。しかし,そのような育児をされた児の中に,ビタミンD欠乏症など栄養不足が見受けられます。アレルギー予防のための離乳食についての正しい情報を,小児アレルギー専門家の観点から,国立成育医療研究センター・成田雅美先生にご教示頂きたいと思います。
【質問者】
北中幸子:東京大学医学部附属病院小児科准教授

【A】

乳幼児の食物アレルギーの原因は,卵と牛乳で全体の半数以上を占めます。また,乳幼児のアトピー性皮膚炎患者では卵や牛乳などの食物に対するIgE抗体が血液検査でしばしば陽性になります。そのため従来,アレルギー疾患の発症予防を目的に卵や牛乳を除去することが,保護者の判断で行われたり,一部の医療機関で勧められたりしてきました。
しかし,残念ながら,このような食物除去を行ってもアレルギー疾患の発症を予防できないということが,欧米で行われた多くの臨床研究により明らかになってきました。これらの研究は主にアレルギー疾患の家族歴があるハイリスク児を対象に行われてきました。食物除去の方法はおおむね次の3種類に分類されます。
(1)妊娠中・授乳中の母親の食物除去 (卵・牛乳など)
乳児のアトピー性皮膚炎患者では,離乳食開始前の母乳しか摂取していない時期でも卵や牛乳に感作されていることがあります。これが胎内感作,経母乳感作だと考えられ,妊娠中や授乳期の母親の食事で,卵や牛乳を制限する介入が行われてきました。しかし,最近の研究では妊娠中・授乳中の食物制限は結果的にアレルギー疾患の発症予防効果がないばかりか,極端な食事制限は母体や子どもの健康にも影響を及ぼす可能性があることが指摘されています。
(2)ハイリスク児の離乳食開始遅延 (母乳栄養の継続)
生後4カ月までは離乳食を開始しないほうがアレルギー疾患の発症が少ないというエビデンスはありますが,生後7カ月以降に離乳食の開始を遅らせてもアレルギー疾患の発症予防効果はありません。アレルギー疾患の発症を心配して1歳近くまで母乳のみで育てるのは乳児の成長発達にとって好ましいことではありません。乳児期後期になると母乳栄養だけではカロリーやビタミンDなどの栄養素が不足することもあります。最近の欧米や日本のガイドラインでは,離乳食は生後5~6カ月に開始することを勧めています。
一方で,母乳不足など生後4カ月まで完全母乳栄養が継続できない場合には,一般の人工乳ではなく,低アレルゲン化された加水分解乳の使用によるアレルギー疾患の発症予防効果が報告されています。ただし,日本では医師と相談の上で加水分解乳を使用するよう推奨されています。
(3)ハイリスク児の離乳食での卵・牛乳除去, または動物性蛋白質全体の除去
食物アレルギーの原因となりやすい卵・牛乳や動物性蛋白質の開始を遅らせてもアレルギーの発症予防効果はありません。むしろハイリスク児では食物アレルギーや湿疹のリスクが高まる可能性が報告されています。
最近の研究では,乳児期の食物感作は湿疹のある皮膚から起こり,適切な時期の経口摂取により食物への耐性が誘導されやすいことが明らかになってきています。乳児期の食物制限によりこのチャンスを逃す可能性も指摘されています。乳児期の食物除去によるアレルギー発症予防効果はなく,逆にリスクが高まることさえあるので,注意が必要です。

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