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MSSAによる中枢神経感染症の抗菌薬による治療

No.4777 (2015年11月14日発行) P.57

大場雄一郎 (大阪府立急性期・総合医療センター 総合内科医長・部長代理)

登録日: 2015-11-14

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)による中枢神経感染症に対して,オキサシリン,クロキサシリンなどのペニシリン系抗菌薬が推奨されていますが,国内では使用できません。MSSA感染症に頻用されるセファゾリンは髄液移行性が悪く,国内でのMSSAによる中枢神経感染症の治療法は定まっていないのが現状と思います。どのように抗菌薬の選択をしておられるのでしょうか。大阪府立急性期・総合医療センター・大場雄一郎先生のご教示をお願いします。
【質問者】
渋江 寧:東京高輪病院感染症内科・総合内科

【A】

MSSAによる中枢神経感染症は,細菌性髄膜炎全体の1~9%とされ(文献1),比較的稀な感染症とされます。しかし,MSSAの左心系心内膜炎では43%で中枢神経合併症,16%で髄膜炎があったとするコホート研究報告(文献2)があり,MSSAの菌血症や心内膜炎の合併症としてはむしろコモンです。なおかつ,MSSAの中枢神経感染症は,予後不良例が少なくないため特に注意が必要な感染症のひとつです。
MSSAの中枢神経感染症に対する抗菌薬治療の第一選択は,国際的にはナフシリン,オキサシリン,クロキサシリンです。これらはMSSAのペニシリナーゼに抵抗性で,MSSAへの殺菌的抗菌活性を示し,中枢神経移行性があります。特にMSSA心内膜炎に合併する中枢神経感染症の場合は,疣贅の菌への殺菌的抗菌活性も考慮すべき点です。狭域スペクトラムのため,長期投与でも多剤耐性菌出現のリスクは低いとされています。米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)の「細菌性髄膜炎診療ガイドライン2004年版」では,MSSA髄膜炎に対して推奨される第一選択治療は,ナフシリンまたはオキサシリンの1.5~2.0g 4時間ごと投与です。同ガイドラインでは,これらが副作用で使用できない場合の代替薬として,バンコマイシンとメロペネムを挙げています。
一方,日本ではナフシリンとオキサシリンは市販されておらず,輸入以外では使用できません。クロキサシリンは,なぜかアンピシリンとの1:1合剤(ビクシリンRS)でのみ市販されています。これをナフシリン並みの十分な高用量で髄膜炎治療に用いるには,認可用量と比べてありえない高用量が必要であり,さらに等量の高用量アンピシリンを同時投与することになるため,副作用リスクの観点では現実的な選択肢とは言いがたいものです。
以上のような国内の独特の制約のため,MSSAの中枢神経感染症において,特に血流/血管内感染症を伴う場合での抗菌薬治療選択については定まったものがありません。筆者がこれまで日本国内の感染症エキスパートから伺ったことのある苦肉の選択肢を以下に挙げます。いずれも髄膜炎用の高用量で数週間以上の投与期間の設定です。
(1)カルバペネム:メロペネム,または第4世代セフェム:セフェピム
→抗緑膿菌広域抗菌薬の長期投与のため,多剤耐性菌獲得のリスクが増えます。
(2)セフトリアキソンとバンコマイシンの静注を併用
→いずれもMSSAに対する抗菌活性が十分でなく,治療失敗のリスクが増えます。
(3)セフトリアキソンとアンピシリン/スルバクタムの静注を併用
→βラクタム同士の併用のため,副作用リスクの懸念があります。
どれも課題の多い選択肢ですが,筆者は(2)(3)を選択して一応治療に成功した経験はあります。
ちなみに,筆者が短期海外留学をした際に海外の感染症専門医らに意見を求めたところ,「日本にナフシリンやオキサシリンがないなんて信じられない。そんな制約での治療選択肢なんて考えたことがない。日本は大丈夫なのか?」といったコメントばかりで,あまり建設的なアイディアを頂けなかったという皮肉な経験もあります。

【文献】


1) Hussein AS, et al:Medicine. 2000;79(6):360-8.
2) Garcia-Cabrera E, et al:Circulation. 2013;127(23):2272-84.

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