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膿胸腔の掻爬・洗浄・単房化手術時の工夫

No.4783 (2015年12月26日発行) P.58

白石裕治 (結核予防会複十字病院呼吸器センター長)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

骨髄移植や各種臓器移植の普及に伴い,呼吸器感染症に対する外科治療が増えてきています。特に,膿胸に対する外科治療は対処が難しい場合があります。膿胸腔の掻爬,洗浄,単房化を行う際にできるだけ肺損傷を起こさないように注意して行いますが,いったん損傷が起きると,硬い醸膿胸膜と正常胸膜とを縫着したときに肺が裂けることがあります。感染症の手術なので,プレジェットなどの異物を使いにくいと考えますが,工夫や手術のコツなどについて,その経験の多い結核予防会複十字病院・白石裕治先生のご教示をお願いします。
【質問者】
河野 匡:虎の門病院呼吸器センター外科部長

【A】

膿胸はその病態によって米国胸部学会(A-merican Thoracic Society:ATS)の分類による病理学的3病期(滲出性期,線維素膿性期,器質化期)にわかれます。膿胸の初期治療は,適切な抗菌薬の使用による胸腔内感染の制御と胸腔ドレナージによる膿の排出です。3病期のうち最も初期の滲出性期であれば,胸腔ドレナージを行うことによって膿を排出し肺の再膨張を図ることが可能です。しかし,滲出性期の治療が不成功に終わったり,膿胸の治療開始が遅れたりすると,線維素膿性期に移行します。
線維素膿性期では,フィブリンの析出により膿胸腔内に隔壁が形成され膿胸腔が多房化します。そのため,1箇所にドレーンを挿入しただけでは膿胸腔全体をドレナージすることができません。ドレナージを効果的にするには,ドレーンから排出されにくいフィブリン塊などを除去し,さらに隔壁を破壊して膿胸腔を単一腔にする必要があります。その方策として,近年では胸腔鏡下に膿胸腔を掻爬する手術(胸腔鏡下膿胸腔掻爬術)が積極的に行われています。
掻爬術を成功に導くポイントは,手術の時期です。線維素膿性期に移行したばかりの膿胸では,隔壁は軟らかく容易に破壊できます。臓側胸膜上の壊死物質も肺表面を愛護的に擦過することによって除去できます。掻爬術後には,良好な肺の再膨張が期待できます。逆に,器質化期に近い膿胸では臓側胸膜が肥厚するため,醸膿胸膜の切除(醸膿胸膜胸膜胼胝切除術)が必要になります。しかし,肺を損傷せずに醸膿胸膜を切除するのは難しく,肺損傷を防ぐために肺表面をやや強めに擦過して醸膿胸膜上の壊死物質を可及的に除去するにとどめざるをえません。そのため,肺の完全な再膨張は得られにくくなります。したがって,滲出性期から線維素膿性期に移行するかしないかのタイミングで掻爬術を行うのがベストです。

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