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危険ドラッグ乱用問題は完全に終息したと考えてよいのか【国際的薬物マーケットの侵入を防ぎきれるか不安が残る】

No.4795 (2016年03月19日発行) P.58

和田 清 (埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部長)

登録日: 2016-03-19

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

2014年は危険ドラッグ使用下での交通事故や暴力事件が深刻な社会問題となり,依存症専門外来には危険ドラッグ乱用・依存患者が大挙して訪れ,受診しました。政府は包括指定をはじめ様々な規制策を打ち出していましたが,これといった決め手がありませんでした。しかし,2014年末の薬事法改正により,「店舗に対する販売停止命令および自主検査命令の対象拡大」がなされた結果,市中の店舗は激減するとともに,危険ドラッグ患者の新患はぱったりと来院しなくなりました。
危険ドラッグ乱用問題はこれで完全に終息し,今後は同様の問題は生じないと考えてよいのでしょうか。埼玉県立精神医療センター・和田 清先生のご教示をお願いします。
【質問者】
松本俊彦:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部部長/自殺予防総合対策センター副センター長

【A】

この質問に答えるためには,2つの実情を紹介する必要があります。
(1)新規薬物の規制方法
1つ目は,新規薬物の規制方法についてです。まず,その薬物の化学構造式を明らかにする必要があります。これを検出・同定と言います。次に,その薬物の標準品(純粋な薬物)を合成し,標準品を用いた各種実験によって,その有害性を証明する必要があります。これらによって初めて,法規制すべきかどうかの審議に入ることができるのです(便宜上,「個別指定」と呼びます)。さらに,取り締まるためには,この標準品を末端の検査機関に供給する必要があります(同定)。1つの新規薬物についてこれらの作業を行うだけでも,かなりの時間・労力と費用を要します。
2011年下半期以降,爆発的に広まった危険ドラッグ(脱法ドラッグ)は,個別指定では追いつかないほど多種多様な未規制薬物(脱法ドラッグ)が供給されたことによります。そこで採られた措置が,薬物の化学構造式の基本骨格が既存の指定薬物の基本骨格と同じであれば,その側鎖を変えても,指定薬物とみなすという「包括指定」です。しかし,薬物の規制方法の基本は個別指定です。包括指定によって,科学の進歩が妨げられる危険性がないとは言えないからです。仮に包括指定するにしても,いざというときには個別指定できる体制を整えておく必要があります。困ったことに,わが国ではそのための体制自体が非常に脆弱であるという実情があります。
(2)わが国の薬物乱用状況
2つ目は,わが国の薬物乱用状況です。違法薬物をこれまでに1回でも使ったことのある人の割合を違法薬物生涯経験率と言います。わが国の違法薬物生涯経験率は2.5%です。ところが,米国は48.0%であり,英国は35.9%,オーストラリアは36.8%なのです。要するに,わが国は薬物汚染という視点からは,世界に誇るべき奇跡の非汚染国なのですが,逆にこのことは,薬物に対するガードの甘さをも意味します。この生涯経験率というものは,薬物の入手可能性の反映でもあります。
入手可能性の高い国では,何も「脱法ハーブ」など買う必要はありません。大麻そのものが入手できるのです。しかし,わが国ではそうはいきません。入手自体が容易でない上に,仮に入手できたとしても,逮捕される可能性がきわめて高いからです。そこでヒットしたのが,捕まらない「脱法ドラッグ」だったと考えられます。
(3)危険ドラッグ問題の今後
危険ドラッグ問題は,2014年末からの販売店舗への規制強化(供給源を断つ)が劇的に効を奏しました。今後数年間は,危険ドラッグ問題は鳴りを潜めるだろうと思います。しかし前述の2点から,私は,いざというときには個別指定できる体制が整備されていない現状では,手を替え品を替え,虎視眈々と日本を狙っている国際的薬物マーケットの侵入を防ぎきれるかどうか,一抹の不安が残ります。

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