【Q】
手指屈筋腱損傷は古くから難治性の外傷として,多様な手術法,後療法が報告されてきました。現在,縫合法では2-strandから10-
strandまで,また縫合糸の通し方も様々な方法が提唱されています。後療法は早期運動療法が主流となっていますが,Kleinert法およびその変法,早期自動運動法など,これもまた様々推奨されています。最近の治療方法(縫合方法を含めて)とリハビリテーション,治療成績について,岡山済生会総合病院・今谷潤也先生のご教示をお願いします。
【質問者】
安部幸雄:山口県済生会下関総合病院整形外科科長
【A】
手指屈筋腱損傷の治療においては,十分な腱縫合部の張力を持つmultistrand suture法による腱縫合の後,慎重な後療法により癒着と拘縮を回避しつつ再断裂も防止し,良好な手の機能を再現させることを基本とします。
まず腱縫合法については様々なものが報告されていますが,それぞれ長所・短所があります。基本的には図1に示すように,断裂部を架橋する縫合糸の数によって2-strand法から10-strand法などがあり,架橋する本数が多いほど縫合部の強度も高くなります(文献1)(図2)。その反面,縫合手技自体が複雑になるだけでなく,縫合糸による血行阻害の懸念が大きくなります。わが国では,吉津1法(文献2) などの6-strand法が主流になってきています。
後療法については3週間固定法のほか,Kleinert(変)法などの早期自動伸展・他動屈曲療法,それに加えて自動屈曲を行う早期自動屈曲伸展療法(early active flexion extension exercise:EAE)があります(図3)。実験的研究により,後者ほど,より大きく確実な腱滑走距離の獲得と周囲との癒着回避が可能であることが明らかとなってきています。
これらの後療法の臨床成績は,Chesneyら(文献3)によるsystematic reviewで報告されています。それによると,「優および良」群の割合はKleinert法で67%,Kleinert法にPIPおよびDIP関節をそれぞれ別々に他動屈曲・伸展させるDuran法を追加したもので73%でした。一方,EAEにおける「優および良」群の割合は94%であり,他の後療法に比べて有意に高率で,成績良好であることが示されています。また,懸念される術後の再断裂率はEAEにおいて4.1%で,他の後療法と遜色なく,統計学的な有意差もありませんでした。しかしEAEの実施は挫滅の著しい症例や小児など非協力的な患者では困難であり,適応に限界があることには注意が必要です。
さらに腱縫合術においては,組織を挫滅させないatraumaticな手術手技が必須です。また,後療法の実施においてはhand therapistとの患者情報の共有をはじめとした密な連携体制の構築や手術見学や各種勉強会などでのスキルアップも重要となります。
1) Lee H, et al:J Hand Surg. 2015;40(7):1369-76.
2) 吉津孝衛,他:骨・関節・靱帯. 1996;9(8):881-90.
3) Chesney A, et al:Plast Reconstr Surg. 2011;127(4):1583-92.