【Q】
欠損を伴う外傷性末梢神経損傷に対しては,欠損が小さい場合には端々縫合術が,大きい場合には自家神経移植術が行われてきました。一方,欧米では1990年代に人工神経(人工管状体)を用いた神経架橋法が開発され,2000年前後には既に商品化され臨床応用されています。近年,わが国においてもようやく薬事承認され臨床応用が可能となりました。
国内外で使用されている人工神経の各々の特徴(長所・短所)と現状,実際に使用する場合の適応と限界について,末梢神経再生分野において,基礎的研究から臨床応用まで造詣の深い名古屋大学・平田 仁先生のご教示をお願いします。
【質問者】
今谷潤也:岡山済生会総合病院整形外科診療部長
【A】
(1)自家神経移植術
端々縫合不能な欠損を伴う末梢神経損傷に対する治療法は,いくつかに分類されます。自家神経移植術が現在までのところゴールドスタンダードであり,採取部位の問題が比較的少ない腓腹神経や前腕内側皮神経などが主に用いられます。
自家組織を用いたほかの再建法としては静脈を単独で用いたり,静脈が潰れて軸索伸長が障害されないように,中に筋組織を詰めて神経断端をバイパスする方法も報告されています(文献1)。
(2)人工神経の開発状況
ご質問のように,2013年にわが国で初めて神経再生誘導チューブ,いわゆる人工神経が承認されました。これはポリグリコール酸(polyglycolic acid:PGA),コラーゲンなど生体内で分解される素材を用いています。米国では1999年にPGAから成る人工神経が,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)に承認され,ほかにも1型コラーゲンやカプロラクトンを素材とした人工神経がFDA認可のもとで臨床応用されています。ほとんどの人工神経は管状構造を呈し,内部を近位から遠位に向かって軸索が伸長するわけですが,3cmを超えると臨床成績が悪くなると言われています(文献2)。
動物実験では人工神経に幹細胞やシュワン細胞を移植し軸索の環境を改善する試みがなされています。また,神経栄養因子などのサイトカインを含有させるなど,軸索の伸長を促進するための様々な工夫が報告されています(文献3)。
(3)米国の同種神経移植の状況
人工神経のほか,米国では脱細胞化した同種神経移植がFDAに認可され,既に使用されています。拒絶反応や感染もなく良好な治療成績が得られた,との臨床報告もあります。自家神経移植と同種神経移植とコラーゲンチューブの治療成績を比較した動物実験があり,結果は自家神経と同種神経がコラーゲンチューブよりも有意に成績が良かったと報告されています(文献4)。脱細胞化によって免疫反応の問題を解決している同種神経移植は有用なオプションと考えられますが,同種神経移植も3cmまでであれば信頼性が高いものの(文献2) ,それ以上の長さの欠損では,今なお自家神経移植を選択したほうがよいと考えています。
1) Sabongi RG, et al:Neural Regen Res. 2015;10(4):529-33.
2) Griffin JW, et al:J Bone Joint Surg Am. 2013; 95(23):2144-51.
3) Pabari A, et al:Plast Reconstr Surg. 2014;133(6):1420-30.
4) Shin RH, et al:J Bone Joint Surg Am. 2009;91(9):2194-204.