【Q】
肺炎球菌ワクチンの定期接種化と新規薬剤の登場により,肺炎球菌ワクチンの接種の考え方,接種方法など,選択の幅は格段に広がったと考えられます。以前接種している患者への再接種などの際にどのような薬剤を選択し,接種していくのか,その際の患者への説明で注意する点はあるのかを教えて下さい。奈良県立医科大学・小川 拓先生にご回答をお願いします。
【質問者】
宇野健司:奈良県立医科大学附属病院感染症センター 講師
【A】
日本における肺炎球菌ワクチンには結合型13価ワクチン(プレベナー13R,PCV13)と莢膜多糖体23価ワクチン(ニューモバックスRNP,PPSV23)の2種類が存在します。以下,成人に対する接種戦略について述べます。
(1)PPSV23とPCV13の特徴
PPSV23は日本で1988年から使用され,侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:IPD),慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や高齢者施設入所中の65歳以上成人での肺炎球菌性肺炎を減少させます。肺炎球菌には多くの血清型がありますが,23種類をカバーしており,全肺炎球菌に対するワクチンカバー率は65%程度です。PPSV23は主に液性免疫のみを活性化し,メモリーT細胞を誘導しないため,複数回接種してもブースター効果が期待できません。また,2回目以降は局所反応の出現頻度が増加する問題も抱えています。
一方で,2014年から65歳以上の成人に適応を拡大したPCV13は,オランダで施行された8万人規模の65歳以上の成人を対象としたスタディで,IPDとワクチン含有血清型による肺炎球菌性肺炎の減少を示しました。T細胞に貪食されやすいジフテリアトキソイドと莢膜多糖体を結合させたワクチンで,細胞性免疫をも活性化しますので,理論的にはブースター効果や長期間の免疫維持が可能です。そのため,PCV13は免疫不全者に良い適応となります。しかし,PCV13には13種類の血清型しか含まれず,全肺炎球菌中のワクチンカバー率は50%程度と,PPSV23に比して劣ります。したがって,PPSV23とPCV13は組み合わせて接種することが重要と考えられます。
(2)PPSV23とPCV13の接種方法
日本呼吸器学会・日本感染症学会から「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」が示されており,PPSV23の定期接種が目前に迫っている場合はPPSV23を先行接種し,1年以上あけてPCV13を接種することが推奨されます。PPSV23の定期接種までの期間が1年以上ある場合はPCV13を先行させ,定期接種でPPSV
23を接種すべきです。一方で,PPSV23の2回目接種後の抗体上昇は初回より悪いとされてきましたが,より殺菌効果を反映するオプソニン化貪食能は差がないとする報告もあり,5年おきにPP
SV23を2回接種する方法も引き続き推奨されています。
米国ではオランダで示されたPCV13の肺炎球菌性肺炎減少効果を重視し,65歳以上の成人に一律にPCV13を推奨しています。しかし,オランダでのスタディは小児に対する肺炎球菌ワクチン接種率上昇中に行われたため,PCV13の効果が過大評価されているという意見もあります。英国や豪州では,65歳以上であっても依然PPSV23だけが推奨されます。各国で共通しているのは,免疫不全者においては年齢を問わずPCV13が推奨される点です。
日本ではPCV13の適応が5歳以下と65歳以上であり,6~64歳の免疫不全者に接種することが現時点では不可能です。今後,改善が待たれます。