【Q】
甲状腺未分化癌は進行が早く,手術,放射線,化学療法などいずれにも抵抗性を示し,積極的に治療する対象ではないとも考えられてきました。しかし最近,未分化癌の治療に対する考え方は随分変わってきているように思います。具体的な治療のストラテジーについて,大阪市立大学・小野田尚佳先生のご教示をお願いします。
【質問者】
内野眞也:医療法人野口記念会野口病院外科
【A】
甲状腺癌の1~4%程度を占める未分化癌(anaplastic thyroid carcinoma:ATC)は,急速に増大する痛みを伴う頸部腫瘤で発症することが多く,発症から短期間に致死的な状況にまで増悪します。切除後の組織中に偶然に発見された場合などのきわめて例外的にしか治癒は望めない疾患です。70~80%の症例では周囲進展や遠隔転移が認められ,手術による根治は困難です。ほとんどは初期治療後短期間で再燃し,平均余命は4カ月程度です。全身播種性転移による衰弱以外に,頸部での腫瘍増大による窒息や出血が死因となるため,患者,家族のみならず医療従事者でさえ予想をはるかに超える病状の激変に耐えがたい苦痛を伴います。残念ながら,過去数十年間で治療法や予後はまったく向上していません。
稀少疾患であるためデータが乏しく,対処方針を示すことができていませんでしたが,甲状腺未分化癌研究コンソーシアムが疾患の現状を明らかにしました。ATCはすべてStageⅣに分類されますが,ⅣA,B,Cの病期ごとに予後が異なっており,白血球増多(1万/μL以上),急性増悪(1カ月以内),遠隔転移,大きな腫瘍(5cm以上)は臨床的予後不良因子となりますので,これらを勘案して治療を進めます(文献1)。
手術のみでの根治は困難と考えられ,術後の補助療法が必要と思われます。放射線外照射は局所コントロールに有用で,タキサンの併用による増感効果が望めます(文献2) 。化学療法でもタキサンが有望ですが,術後補助療法としてのエビデンスはありません。タキサンによる術前化学療法が奏効した場合,術後の長期生存が望めます(文献3) 。一方で,現状の化学療法の遠隔転移巣への効果は限定的なようで,タキサン,プラチナ製剤の併用が試みられています(文献4) 。
手術不能症例を対象に,分子標的薬が認可されましたが,完全寛解は例外的で有害事象がほぼ必発であるため,使用には十分な説明と対処の準備が必要です。新規の治療薬でもあり外科と腫瘍内科との連携プログラムが構築され,臨床試験などを通じて治療関連情報の集積が進んでいます。
確かにこの数年でATCに対する治療の選択肢は増え,ストラテジーの整理が必要であり,2016年に改訂される診療ガイドラインに反映される見込みです。しかし,難治性疾患であるため,診断後早期からの緩和医療の介入や支持療法の提供が必要なことに変わりはありません。今後とも臨床試験や新薬の開発を進め,新たな治療戦略を構築する必要があります。
1) Sugitani I, et al:World J Surg. 2012;36(6):1247-54.
2) Onoda N, et al:Anticancer Res. 2013;33(8):3445-8.
3) Higashiyama T, et al:Thyroid. 2010;20(1):7-14.
4) Smallridge RC, et al:Thyroid. 2012;22(11):1104-39.