【Q】
西洋ハーブのセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)に抗うつ作用があると言われているが,その効能について。医薬品と併用することに意味はあるか,相互作用の問題はないか,など。 (新潟県 H)
【A】
セントジョーンズワート(St. John’s Wort:SJW)の安全性および有効性は,これまでに多くのRCT(ランダム化比較試験)やメタ解析により検証され,軽症から中等症のうつ病に対してSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と同等の効果があり,かつSSRIよりも副作用が少ないことが示されている(文献1)(文献2)。また,重症のうつ病に対するSJWの効果を示した臨床研究も散見される(文献1)。
標準化SJW抽出物は,hypericin(ヒペリシン)0.3%として調整された製品が多く,1日900mgを3回にわけて投与する。また,hyperforin(ヒペリフォリン,ヒペルフォリン)2~5%として調整されたSJW抽出物を1日900mg,3回にわけて投与する用法もある。
一般に,SJWは許容性が高く,標準化された製品を,通常の摂取目安量にしたがって単独で摂取する際,安全性は高い。臨床試験で認められた副作用の多くは,消化器系症状,皮膚障害,疲労感,不安,頭痛,眩暈,口渇感である(文献3)(文献4)。医療用医薬品の抗うつ薬〔SSRIやTCA(三環系抗うつ薬)〕による治療群と比べて,SJW投与群での副作用は少ない(文献3)(文献4)。
ただし,SJWは医薬品との併用には注意が必要である(文献5) 。共通する働きを有する医薬品との併用によるセロトニン作用の増強や,チトクロームP450やP糖蛋白の活性誘導作用を介した,様々な相互作用が報告されている。
チトクロームP450の分子種では,3A4をはじめ,1A2,2C9,2D6,2E1などの発現や活性の誘導あるいは阻害が示されている。なお,SJWとの併用時に相互作用により臨床的に問題となる有害事象(薬効低下など)を生じる場合には,医薬品の添付文書の使用上の注意に,併用禁忌または併用注意として,「セイヨウオトギリソウ含有食品」との相互作用が記載されているので確認が必要である。
一般に,SJWをほかの医薬品と併用することはなく,RCTでもSSRIやTCAを実薬対照として評価が行われている。重症うつ病に対して,SJWとTCAを併用し,相乗作用を認めたというRCTが知られているが,さらに検討が必要であろう。
わが国では,SJWは,サプリメント・健康食品として販売されており,食薬区分では食品に分類される。そのため,効能効果としての表示は規制されており,「用法・用量」ではなく,「召し上がり方」といった表現が記載されている。また,有効成分の含有量や価格がメーカーにより異なるため,安全性・有効性・経済性(費用対効果)を考慮して適切な製品を用いる必要がある。
【文献】
1) 蒲原聖可:必携サプリメント・健康食品ハンドブック. 新興医学出版社, 2009, p98-9.
2) 蒲原聖可:EBMサプリメント事典. 医学出版社,2008, p381-96.
3) Linde K, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2008; (4):CD000448.
4) Linde K, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2005; (2):CD000448.
5) 蒲原聖可:サプリメントと医薬品の相互作用診療マニュアル. 医学出版社,2006, p207-45.