【ナットウキナーゼは血液線溶系あるいは凝固系の酵素に影響を持つ】
ナットウキナーゼは275個のアミノ酸からなる一本鎖構造であり,計算分子量は27,724,pI8.7です1)。合成基質では特にBz-Ile-Glu-(OR)-Gly-Arg-pNAを分解し,Km=7.43×10−4M,Vmax=0.088μmol/分です2)。
一般に蛋白はアレルギー(抗原性)の面から細かく研究されています。今では胃内投与すると30分で既に血液中に検出され,2~3時間後に最高値(5~100ng/mL)に達し,7時間後までの追跡では最高値を維持すると考えられています3)。よく使われるのは卵白のアルブミンですが,これら単純蛋白に対し,ナットウキナーゼはactive siteを有しプロテアーゼ(フィブリン分解)活性を持ちます。1980年4),1985年5)に我々が報告したウロキナーゼの経口投与で線溶系が亢進するという実験があります。ナットウキナーゼは最初に発見されたときも,経口投与した後血中にEFA(血漿euglobulin分画の線溶系の亢進)およびt-PA(tissue plasminogen activator)の上昇が認められました6)。
経口下で小腸を通ったという実験成績もあります。かつて,セラペプターゼ(ダーゼン®)(Serratia sp. 由来のプロテアーゼ)は,経口化しても腸管吸収により血中に入り,血中のα2-マクログロブリン(α2M)と複合体をつくると考えられていました。一島7)はナットウキナーゼの腸管による血中への移行を調べ,ナットウキナーゼがα2Mと複合体を形成すること(2:1の複合体を形成する)を報告しました。ナットウキナーゼ(分子量2.8万)はα2M(分子量82万)に包みこまれ,活性を有するまま取り込まれ,免疫学的にもアレルギー反応から防御されると考えられています。
最近,Kurosawaらはナットウキナーゼを経口投与し,6~8時間にわたり線溶系の亢進(血栓が分解されたこと)を示すD-ダイマーが長時間にわたり有意に上昇することを報告しました(P<0.005)8)。さらに,凝固系因子の最も重要なもののひとつである凝固系第8因子が有意に低下することを認めています。すなわち,ナットウキナーゼは経口下でも十分血液線溶系あるいは凝固系の酵素に影響を持つというわけです。
ナットウキナーゼは血漿キニノーゲンに働きかけ,アミノ酸9~10個のキニンを遊離します。特に,遊離したブラジキニンは1ng/mL以下の濃度であっても生体内で強い薬理作用を持ちます2)。
現在,カリジノゲナーゼ(カリクレイン®),は末梢血管を拡張し,血液の流れを改善する循環改善薬目的で経口投与され,高血圧症,メニエール症候群,閉塞性血栓血管炎,網脈絡膜,動脈硬化症に対して用いられています。
ナットウキナーゼはエラスターゼ活性を示します2)。その活性はエラスタチナールによって強く阻害されます。エラスターゼは,現在主にブタ膵臓由来のものが高脂血症の改善,あるいは抗動脈硬化目的で,臨床的にはエラスターゼESなどが経口投与薬として使用されています。
今,臨床家にとって最も関心が高いのがナットウキナーゼと心筋梗塞などの薬であるt-PAの活性増強の問題でしょう。種々の実験で,ナットウキナーゼによるt-PAの増強が確認されています9)。
ナットウキナーゼはアミロイドβ-プロテイン線維等を強力に分解し取り除く作用があり,アルツハイマー発症予防薬としても注目されています。ナットウキナーゼは現在純化され,その結晶化とX線結晶解析に成功しています10)。
【文献】
1) Sumi H, et al:Experientia. 1987;43(10):1110-1.
2) 須見洋行:納豆. 大豆と日本人の健康. 渡辺 昌, 編. 幸書房, 2014, p66-79.
3) 松田 幹, 他:研究の進歩と今後の展望. Nutrition Review, Nestlé Nutrition Council, 2008.
4) Sumi H, et al:Thromb Res. 1980;20(5-6):711-4.
5) Toki N, et al:J Clin Invest. 1985;75(4):1212-22.
6) Sumi H, et al:Acta Haematol. 1990;84(3):139-43.
7) 一島英治:日醸造協会誌. 1993;88(7):537-42.
8) Kurosawa Y, et al:Sci Rep. 2015;5:11601.
9) Yatagai C, et al:Pathophysiol Haemost Thromb. 2008;36(5):227-32.
10) Yanagisawa Y, et al:J Synchrotron Radiat. 2013;20(Pt 6):875-9.
【回答者】
柳澤泰任 千葉科学大学薬学部薬学科講師
須見洋行 倉敷芸術科学大学名誉教授