わが国の臨床薬理学(Clinical Pharmacology)を牽引するキーパーソンの1人で、2018年11月まで4年間、日本臨床薬理学会理事長を務めた渡邉裕司氏(浜松医科大臨床薬理学講座教授、国立国際医療研究センター臨床研究センター長)が編集した『なぜ効く?どう違う?を理解し処方するための 治療薬の臨床薬理データブック』(日本医事新報社)が12月に刊行された。
「必要とする人に、必要な薬を、必要なだけ」という薬物治療の理想の実現を目指す臨床薬理学の知見を、臨床医をはじめ、薬剤師、看護師などの医療スタッフに共有してもらいとの思いで本書を編集したという渡邉氏に、臨床薬理学の最新動向や臨床薬理学会での取り組み、いまなぜ臨床薬理学の知見が医療現場に必要なのかを聞いた。
渡邉 臨床薬理学は2つの大きなミッションを持っています。
1つは、吸収・分布・代謝・排泄の過程での薬物血中濃度の変化といった薬物動態学的な情報、あるいは、薬力学、薬理遺伝学的な情報に基づいて個別化薬物治療を推進すること。
もう1つは、新しい医薬品や医療技術を開発するための臨床試験をサポートすることです。
渡邉 その通りです。
外科の先生はおそらく、自分の技術が患者の術後の状態に強く影響するからこそ、技術の修得に熱心なのだと思いますが、私も含めて内科医は、外科医がメスを使うのと同じくらい薬剤選択を慎重にすべきです。なぜこの薬を選択したのか、なぜこの薬用量を選択したのかというところをもっと丁寧に、もっと慎重になすべきだと思うのですが、そういった教育が十分になされていないのが日本の現状です。
渡邉 まだそんなに多くないです。浜松医大では臨床薬理学講座が臨床系講座として成立しており、診療科もありますし外来も開いていますが、日本では臨床薬理学という講座はどこの大学にでもある講座ではありません。しかし、海外ではかなり一般的な講座として定着していて、薬物治療のレベルをさらに高めていきたいという思いを持つ人、臨床試験で新しいエビデンスをつくっていきたいという希望を持つ人がたくさん集まっています。
今年7月に京都で開催した国際薬理学・臨床薬理学会議で、米国のヴァンダービルト大臨床薬理学講座のナンシー・ブラウン主任教授に「ファカルティメンバーは何人ですか」と聞いたところ、「250人です」とおっしゃっていた。そのくらいの規模が一般的で、だからこそ米国では新薬開発も医師のミッションという精神が刻み込まれているのかもしれません。