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日本の堆積作用と遺跡発掘の特徴は?【埋蔵文化財は集落跡の高台に多い】

No.4779 (2015年11月28日発行) P.67

戸田哲也 (玉川文化財研究所代表取締役)

登録日: 2015-11-28

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

工事現場などから遺跡が出ることがありますが,河口など堆積作用がある土地以外でも,遺跡が地下に埋まっている理由は何ですか。日本の特徴があれば併せて。 (千葉県 K)

【A】

日本列島で平坦な地形に土が堆積する最大の原因として,火山灰の降下を挙げることができます。日本各地にある約40の火山から噴出した火山灰などは気流に乗って全国に飛散します。火山活動に近い地域では火山性堆積物が厚く積もり,遠隔地では薄くそれでも時間をかけて少しずつ堆積は厚くなります。
また土の堆積には生育した植物(草木)が死滅して土へと変化した腐葉土の堆積も含まれ,植物を繰り返し繁茂させることとなります。
日本列島に人が住みはじめた約3万5000年前からは,このようなかたちで遺跡の上に土が堆積して遺跡は埋もれてゆきます。
土の堆積のスピードは,火山のあり方によって各地で異なりますが,関東地方を例にすると,富士山,箱根山,浅間山,赤城山,榛名山などを起源とする火山灰を主体として,それに広域に広がった他地域の火山灰も加わり,さらに腐葉土もまじえて,縄文時代中頃からの約5000年間で約0.5m,縄文時代の始まり頃からの約1万5000年間で約1mの堆積の厚さとなります。1mより下の地層は関東ローム層(赤土)と呼ばれ,火山活動がさらに活発であった時代の堆積層となります。この赤土は厚いところで5m近くも堆積して,土中からは旧石器時代の文化遺物が出土します。
次に,日本の遺跡は旧石器時代から縄文時代,弥生時代を経て古代,中世,近世に至るまで丘陵上,台地上を選んでムラがつくられたため,住居跡などが多く発見されますが,弥生時代以降では水田をつくる関係から低い土地の微高地上に集落がつくられる場合もあります。
このような集落(ムラ)跡の上に数千~数百年かけて火山灰を主体とした土が積もり(堆積し),遺跡は埋没します。このように地中に埋もれた遺跡のことを我々は埋蔵文化財と呼び,全国に約30万箇所残されていると考えられています。土木工事などで埋蔵文化財を壊してしまう場合には,法的に事前調査という発掘が必要とされ,道路,鉄道,住宅等の建設工事に伴って全国で年間約8000件の遺跡調査が行われています。
最後になりますが,河口部には上流から流れてきた土砂が堆積する場合もありますが,洪水などにより海へ押し流されてしまい,あまり堆積土層があるとは言えません。一方,遺跡のあり方としても洪水の可能性のある河口部に集落などをつくることはほとんどありません。やはり遺跡の多くは高台を選んでつくられていると言えます。

【参考】

▼ 湊 正雄, 他:日本列島. 岩波新書, 1976.
▼ 新井房夫, 編:火山灰考古学. 古今書院, 1993.

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