【Q】
父親が慢性B型肝炎と判明した場合〔DNA量 6 log copy/mL,HBe抗原(-),HBs抗原1100 IU/mL〕,その配偶者へはHBs抗原/抗体(-)を確認後にB型肝炎ワクチン接種予定。
この場合,同様の検査結果が陰性であれば,水平感染予防という観点から子ども(小学生)に対してもワクチンを接種するという方針が望ましいでしょうか。 (神奈川県 O)
【A】
本例は父親がHBe抗原陰性ですが,子どもにB型肝炎ワクチンを接種することが望ましいと考えます。
B型肝炎ウイルスは,感染者の血液や,唾液,汗や涙などの体液を介して感染します。性行為によっても感染するため,特にHBe抗原陽性者では高率に夫婦間感染がみられます。
小児では,母子感染例が減少したことから,父子感染をはじめとする同居家族からの感染や,保育園などの集団生活での感染が重要視されています。歯ブラシやひげ剃りの共有など,少量の血液を介して家族内感染する可能性があり,また,唾液中のウイルス量は少ないのですが,傷の手当てや食べ物の口移しなどといったスキンシップでも子どもに感染する可能性があります(文献1)。
父子感染に関しては,父親がキャリアである場合,24.2%の子どもに感染がみられ,9.1%がキャリアとなることが報告されています(文献2)。57名のB型肝炎ウイルス感染小児を対象とした最近の研究(文献3)では,母子感染が37名(65%),父子感染が14名(25%),同胞間感染が2名(4%),そして4名(7%)が経路不明でした。
父親がHBe抗原陰性の場合,子どもへの感染例はないとの報告もあり(文献2),本例でも父子感染のリスクが高くないとはいえ,B型肝炎ワクチンを接種することが望ましいと考えます。また,B型肝炎ウイルスキャリアの配偶者のHBs抗原/抗体が陰性である場合にも,B型肝炎ワクチン接種が推奨されます。
現在,WHOに加盟している193カ国のうち180カ国は天然痘,ポリオについでB型肝炎ウイルス感染撲滅のために全出生児を対象にB型肝炎ワクチンを接種しています。日本では,現在,母子感染を含めてB型肝炎ウイルス感染リスクの高い人を対象とした任意接種が行われていますが,2016(平成28)年10月からB型肝炎ワクチンが定期接種化されることが発表され,今後小児のB型肝炎ウイルス感染数は減少するものと期待されます。
1) Heiberg IL, et al:Pediatr Infect Dis J. 2010;29(5):465-7.
2) 広田 俊, 他:肝臓. 1987;28(4):427-32.
3) Komatsu H, et al:Hepatol Res. 2009;39(6):569-76.